ボクとキミのものがたり
そんなボクに 太陽は、優しい陽射しと暖かさを向けてくれているのだが、羽織ってきたジャケットは、ちょっとした我慢大会のようなものに感じた。
キミはといえば、軽めのセーターを着て、澄ました顔で横に居る。
「もっと寒いかと思ったね」
「チェックチェック、お出かけには まず天気予報ですよ」
そんな小憎らしさを何処で覚えてきたんだ? とボクは片肘をキミの脇腹に軽くぶつけた。
キミは、ボクを見上げると にゃんと目を細めた。(可愛い… もとい、こいつぅー… ってやっぱり可愛いな)ボクは、自分自身の滑稽さに溜め息が出そうだった。
ボクは、ジャケットの袖をたくし上げて涼を求めたが、店に着いた頃には 背中にじんわり汗を掻いていた。
入り口辺りで キミは足を止めた。
振り返りキミを見たボクに手をもぞもぞしながら言った。
「今から 行って来る」
キミの決心に ご飯は? などと水をさす言葉などかけられるわけがない。
「わかった。それで納得できたら来いよ……帰って」
「にゃん、はい」
あ、だけどボクは少し不安だ。そんな表情をキミは察したのか、バッグから携帯電話を取り出し 何かを始めた。間もなくボクのポケットから 少々恥ずかしいアニメの着信音と腿にバイブレータでの知らせがあった。
目の前から届いたメールには、キミの壊れて買い換えたらしい携帯電話の新しい番号と引っ越したといった新しい住まいの住所が書かれてあった。
「待っていてね」控えめに差し出すキミの手をボクは握った。
店への来客の通り道で 邪魔になっていたボクたちを 小母さんが横目で見て行った。
ボクは、キミと手を繋いだまま 通路の端に避けた。ボクの指の間にキミの指が交互に絡んでいた。
(こんな組み方をしたら 外し辛くなるじゃないか……)自分のしたことに後悔した。
「駄目じゃん」キミも 俯き小声で呟いた。キミの空いた片手が 絡んだ指を一本一本広げ外していった。
じゃあと声にならないほどの口の音とともに ボクの目に映っていたキミの笑顔が背中へと変わった。
振り返らないままのキミの背中を二筋目の角まで見ていたが、ボクは、踵を返し店内へとはいった。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶