ボクとキミのものがたり
【ふたつ】
ボクの頬に何かが触れた。まだ ボクは夢の中だ。
きっと掛け布団の端でも顔に触れたくらいのことだろう。
ベッドの中に そんな虚ろな感覚のボクが居る。
三時間ほど前のこと。
まだ暗い朝に目覚めて、隣にいるはずのキミが居なくて、狭いながらにそれぞれの部屋を探して、それから リビングに行って、クローゼットを覗いて、キミを見つけて、リビングのエアコンのスイッチを入れて、………、照明を消して、部屋へと戻って、しばらく寝付かれなくて、キミのことを考えて、ああ…いつのまにか 夢の中だ。ボクは寝てしまったんだ。
窓を照らす陽射しが 瞼を通してボクの閉じている瞼の裏側が明るくなった。
(いや、おかしい。此処は寝室)
リビング兼仕事場に掛けてある明るい陽射しが通るキミと選んだ奇怪な模様のカーテンとは違って この部屋のカーテンは、遮光カーテン。しかも一級の99.99パーセント以上の遮光率で 人の顔の表情もほとんどわからないレベルのものだ。瞼に陽射しを感じるなんてありえない。
ボクの意識が、急速に目覚めに向かう途中、また頬に柔らかなしっとりした感触を感じた。
キミが「びっくりした」というほど ボクは瞬時に目を開けた。
だが、途端に目を細めてしまうほどの明るさに 再び目を瞑った。
なんとか片目だけを半開き、その声を見た。いや、その声の主を見た。
「にゃお、おはようにゃん」
「ん…おはよう」手を伸ばすと ボクの掌をキミが包み込むように握った。
自然の流れのように その手を握り返すと引っぱた。
思い描いたように キミは ボクの胸の辺りに倒れこんできた。
そのまま 掛け布団を挟んで キミを抱きしめ、目を閉じ、ふぅーと深く息を吐いた。
「…眩しい」
「え?」
「カーテンを開けたら 眩しい」
やっとボクの目も、その明るさになれてきて、目を開けることができた。
「もう大丈夫?」
返事の代わりに キミの頭髪にキスをした。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶