ボクとキミのものがたり
「ねえ、今日は部屋へ帰ろうか。ボクの部屋へおいでよ」
記憶を返しても、キミを誘うなんて初めてだった。
鍵を渡したその時から いつもキミ任せで過ごしてきていた。なんたる無関心。今更ながら、ボクは自由の意味をはき違えていたようだ。キミは、居て欲しいと思うときには、何故かやってきたし、邪魔にならないようにあの場所にいるキミの気配をさりげなく感じていたボクの背中はストレスを感じたことがなかった。
ボクは、そんなキミのことをどう思っていたのだろう。
キミは、そんなボクのことをどう思っていたのだろう。
今キミを見つめるボクは、これから何をしようとしているんだろう。
言い出したくせにボクの鼓動が早くなるのを感じた。
「居ていいの?」
キミの言葉がボクの耳に届いた。早くなった鼓動が不思議と静かになっていった。
暫く、ボクたちは、言葉を交わすことなく歩いた。
体は、寒さに温かさを求めているけれど、気持ちの中に帰り道がずっと続くのもいいなと思っていた。何でも話せそうな、張り詰めた冷たい空気に素直さが溶け込むのも悪くない。
ただ、そのひと言めが出てこなかった。
「綺麗なノートだったね」
キミが、ぽそりと呟いた。
「え。ほらぁやっぱり欲しかったんだろ。戻ろうか?」
「ううん」
そのほんの短い言葉にボクの知らないたくさんの想いが詰まっているように感じた。
「硝子の絵。天使?エンジェルの絵、店の人が描いたのかなぁー良かった」
いつものテンポで言葉が返ってこない。ボクもそのまま 黙ってしまった。
また、ボクたちは、おたがいの存在だけを感じながら歩いた。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶