ボクとキミのものがたり
そうまでして、隠す理由ってなんだろう?
(やっぱり、目の前で確かめるか)
「ねえ、黙って荷物を覗くなんてことはしたくないから聞くよ」
「……(小さく頷く)」
「さっき、キミのかばんの中にボクが不採用になった会社のロゴを見たんだけど」
「……」
「キミは?何か関係ある人?」
会社が破綻してから、年月も経っている。ボクと同様に不採用の通知なら、今まで持っているほうが不自然だ。
ボクの中で、一気に記憶がよみがえる。キミと出会ったあの日ことが……。
そうだ。キミはどうしてあんな所に居たのか。
大雪の降る夜なのにコートらしきものは着ていないし、雪に髪も濡れていた。
あの時、顔を上げたキミのキョンシーのような目元は、ひとしきり泣いた後だったのではないだろうか。
じゃあ、どうして、このマンションの前で膝を抱え、顔を埋めて座り込んでいた?
そうか。たぶん、ボクの住所がわかったからだ。
でも、不採用になったボクはプー太郎だ。助けになんてなれないじゃないか。
もしかして、逆なのか?
助けられたのは、ボクのほうなのか……。
確かに キミが、来てからボクの周りはうまくまわっている。でも、ものを書き始めたのだって、キミが何か勧めたわけではないし、認められたのは、自分の力と思いたい。
ボクの仕事にしてからも、キミが、何処かに力をかけているわけではなさそうだ。
ただボクは、キミが居ると何となく安らいだ気持ちになる。
このボクの『独書室』に、キミが居ないと物足りなくなってきた。
いつだって、ボクの意識はキミの気配を感じているような気がする。
キミの笑顔が、いつも 一番傍にあって欲しいものになっているのかもしれない。
ただそれだけ……。そう、それだけなのに とても大切なことだと……
そんなことに やっと気付くなんて……。
あたりまえに居て あたりまえに話して あたりまえに感じていることが、こんなに大事なことだったなんて考えもしなかった。
『自由でいられた 自由にしてあげていた』だから、不満なんてない。
そう、思っていたのは、ボクのエゴか思い込みだったのかな。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶