ボクとキミのものがたり
そうそう、ボクが枯れ葉舞う夕暮れから小春日和の穏やかな日になったのは、キミの優しさが沁みてきたからなんだよな。
キミのいつもの場所に揺れるコスモスの花。和名である「あきざくら」秋の桜という表現もなかなか素敵だ。
コスモスは宇宙。その秩序や調和に対してカオスという言葉。混沌とした状態や無秩序。
こうして言葉を連鎖させていくと元は何だったかと忘れてしまう。今もそれに陥っていきそうだ。待て待て、キミの優しさだったかな。
横道に逸れたついでにボクとキミも カオスに始まって少しコスモスっぽくなったかな。
駄目だ。余計にわからなくなってきた。ん……なんだったかな。
花言葉。
ついでに調べてみた。
『調和』『乙女の真心』?
ボクとキミもいい感じに調和がとれてきたように思ってるよ。でもなぁ、ちょっと吹き出したよ、やっぱり『乙女の真心』ってさ。キミにぴったりだからさ……
誰も知らない惚気だ。
あぁ、ボクの背中の後ろにキミが居てくれない。キミの気配もない。ボクは逢いたい。
昨日逢ったばかりなのに 別れてからもう何時間経ったんだろう。
背中に感じる温もりは キミじゃなくて窓からの陽射しのものに変わってしまった。
ひとさし指で唇を押してみても、キミの柔らかさは思い出せない。(ごめんよ)
あーまた 原稿とは違うことを考えてしまっている。頭を抱えて 髪に触ってもキミのいい香りも 鼻先をくすぐるさらさらの感触も感じない。
まったくどうしたんだ。こんな感情はとんと知らない。きっとこの陽気のせいだ。
冷えきった頭ん中になだれ込んだ暖かな感情にとろとろ状態じゃないか。
とにかく、落ち着いて早くこれだけは仕上げよう。仕上げたらキミに連絡しよう。
目的がないと 歯止めがきかない。大袈裟だ。まったく大袈裟だけど 仕方ない。
ボクは、仕事の椅子から立ち上がり、キミのいつもの場所、フローリングの床の敷物の上に座った。卓袱台の上には、咲き頃も終わりかけのコスモスの花。薄紅色の花とやや濃い紅色の花が数本。匂いを嗅いでみようと鼻を近づけてみる。甘い香り。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶