ボクとキミのものがたり
【小春日和】
こんな小春日和の穏やかな日はあなたの優しさが沁みてくる……
そんな歌詞が頭の中を行き交う。窓越しに見る空は窓枠いっぱいに青い絵の具を塗ったように晴れている。陽射しが柔らかくカーテンを照らす。その仕事場で浮かんでくる言葉を忘れないように原稿に書き止めるボクが居る。
枯れ葉舞う夕暮れは、来る日の寒さをものがたり……
昨日の夕方のボクの頭の中はこんな歌詞が邪魔をしていたというのに 可笑しいな。
締め切りが迫り、絞り込めない案を思い浮かべながら、原稿に書き止めるボクが居た。
そういえば、この仕事を始めてからだろうか。キミと出逢った頃だったかな。
こうして自分を振り返るとき、何処からか拝借してきたフレーズが浮かんでいた。
なんだか遠い記憶を思い出しているように感じるけれど、そんなに時は経っていない。
そう感じるのは、キミとの出来事がありあまるほど あったからかなと思う。
いや、有り余ることなんてないな。毎日あったってボクには足りないくらいキミで溢れていたい。
でも、これはボクだけのナイショ。
たとえキミにわき腹をくすぐられようとも、目の前に好物をぶら下げられて「はい、あーん」と言われようとも開いた口からそれを零すことはない! ないはず! ないだろう… しないでくれよ。
小春日和。
カレンダーからいえば、もう少し前の時期に使う言葉なんだろう。言葉を扱う者としては正しくない使い方と笑われてしまうかもしれないな。
きっとキミにも「にゃん?」って。たぶんこんな具合に言われてしまうだろう。
ボクの知らない頃と季節の巡りかたが違ってきているようだが、その表現のずれた言葉も忘れてはいけない。流行歌といわれる時代の歌詞で それを知ることもけっこうある。
仕事をはずしても 言葉は楽しいおもちゃだ。
なのに キミは単純でいいな。
その単純なキミが、違う… キミの単純な超短い表現を ボクの思考が最大限に広がってあらゆる言葉を導きだす作業をしている。
まるで 不明瞭なワードを打ち込んだコンピュータでの検索のように 近似したものや正解なものを弾き出してくる。実に面白い。あれ?何処かで聞いたことがあるような…気のせいかな……
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶