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ボクとキミのものがたり

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車内に 到着駅案内のアナウンスが流れた。
ボクとキミ そして、降車をする乗客がごそごそと身構える。あの人もあのカップルも降りるんだなと予想がつく。ドア付近に立っているボクとキミが押し出されるようにホームに降りることになるのだろうな。お互いが離れないように、なによりボクがはぐれないようにキミの手を握った。

線路の鉄の軋む音とともに エンジン音が減衰しながら ホームへと入って行った。プシューとドアがスライドして…… 予想通りに ボクは背中を押された。手を繋いだキミの肩を押すようにホームへと降り立った。ボクを誘導しているのは、もちろんキミだけどね。
ピロロロロロと耳障りに高い発車を予告するベル。走ってくる客。車掌は、見逃さない。細心の注意と気遣いで 乗降車する人をさばくと、合図を送る。ドアが閉められ、エンジン音が増幅する。ゆっくりと動き始めた頃には、ボクらは、階段を降りかけていた。

改札口で乗車券は無情にも機械に吸い込まれていった。初めてのキミの駅の乗車券なのに記念にもなりゃしない。
(頂戴)
脇のブースから見ている駅員さんを恨めしく見ても「ありがとうございました」と言葉尻もはっきりしない流れ作業で見送られた。
駅の外に出ると真っ暗に近い。
「暗いね。送ってきて良かった」
「にゃん」
「にゃんと 目が真ん丸ですね。どちらへ行きましょうか?」
駅からの数段の階段を降りた時だった。車のクラクションが鳴った。
振り返りキミが見つけたのは……
 
ちょうど通りがかったというキミのお父さん。

これから、キミとの帰り道エピソードが語られるはずなのに どうしてこうなるの。

さてさて どういうシチュエーションでキミを送って行こうか? と考えるはずだった。 
ボクの思惑は、構築しない前に木端微塵にガラガラドシャンと崩れてしまった。
「にゃん、そういう意味だったのね」 
「え、何?」
ボクの顔に何か書いてあるのだろうか? 今日のキミは、エスパー。
《愛のテレパシー》 あぁ、言ったら 凄く恥ずかしいぞ。絶対に言わない。
「にゃお。猫もテレパシーってあるの?」
「さあ?」
久し振りに こんな会話をしたような気がする。ぞわぞわっとしながら嬉しい。

作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶