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ボクとキミのものがたり

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【電車】




水族館を出て、ジンベイザメのぬいぐるみをおともにした腹ペコなキミと立ち寄った洋食屋さん。「美味しかったね」と訊かなくてもキミの嬉しそうに尖がった唇でわかる。

「今日は 家まで送るよ」
そう言った時のキミの嬉しそうな笑顔に ボクはこのまま独書室、いやボクの部屋に連れて帰りたいなと思った。……キミというぬいぐるみ。そんなことが頭の中を駆け巡っているボクが居る。

水族館からの最寄り駅から電車に乗る。キミの手を握って、いかにもエスコートしているようなボクだけれど、実のところ此処へ来る時も内心どきどきだった。
何故?って…… 言ったでしょ、方向音痴だって あ、これは内緒だよ。(誰に?)
そんなボクを見上げるキミは、ボクの心の中を見透かしているんじゃないか。ボクよりボクを知っているかのように瞳に真っ直ぐな視線を感じる。

確かに キミの方が出かけることも多いようだし、電車も乗り慣れているようだ。
きっとボクの方が、頼りにしているのだろうな。
そっか。もしかして自慢したかったのかな… 水族館に誘ったのもキミのほうからだったね。やや歪んだ笑顔のボクは 心の中でそう語りかけた。 
 
「にゃん」
ボクは 一瞬目を逸らした。キミが ボクの心の声に返事をしたのかと驚いた。
「ご飯食べたのに 真っ暗じゃないにゃん」
街中であるうえに 多くの人が利用する施設への通りだからか 街の雰囲気を壊さない茶系のおしゃれな街灯が足元まで照らしている。このライトの下ならお互いの表情まで見えてしまう。いつも見ているキミなのに なんだか照れくさい気がする。
ボクは、ジンベイザメのぬいぐるみに話しかける。
「おこさまランチは美味しかったですか? あれ?小っちゃくなったみたいだ」
「ぅー にゃん」
「ごめん。暗くて見間違えたぁ」
面白くもない冗談を言ってみたが 本当に面白くなかった。
「ジンベちゃんは おやすみの時間です」とキミはぬいぐるみをバッグに入れてしまった。
目の前に 駅の入り口が見えてきた。

作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶