ボクとキミのものがたり
食べ進むうち、キミが無口になっていく。夢中で食べているからだとボクは思った。
「ごちそうさま」
急に席を立ち、洗面所に行ってしまったキミの後ろ姿を見て、謎が解けた。
女の子だなぁ。可愛い笑顔に歯に挟まったコーンは やっぱり笑ってしまうだろうな。
ニャハハハ・・・(あ、自分でも 笑ってる…)
まったく 何て笑い方してるの、可愛くてしかたないじゃないか。
戻って来ても まだ笑っているキミにボクもつられて笑った。
きっと ボクの歯にも……
キミが暑い中、頑張って茹でてくれたとうもろこしは、どちらの茹で方も旨かった。甘味のあるとうもろこしに ほど良いしょっぱさが食欲をそそる。
しかし、ふたりで五本を食べるのは、やっぱり無理だ。冷蔵庫で保管しておこう。
これでボクの食料はできたかな。いや ほんと旨かった。
キミが、まだ冷めていないとうもろこしの粒をキレイに抜いてくれた文字入りのとうもろこしは ボクが独り占めで食べた。滅多にキミの気持ちなんて確かめもしないし、キミも訊いてこない。でもお互いに意識しているのは 真実だと思う。
とうもろこしが メッセージを運ぶ使者になるとは思わなかったけど、優しいその甘みがふたりの気持ちのようにも感じる。しょっぱさは キミの涙かな。
なんてことを思いながら、結構食べてしまったらしく腹が膨れてきた。こっそりベルトを緩め、床に倒れるボクが居る。覗き込むキミの髪がボクの頬にかかる。優しい夏の香り。
何気ない幸せをいっぱい感じているね。この夏はどんなことがあるのかなぁ。
よく熟れた黄色い粒々のとうもろこし。
ただそれだけなのに……。
― Ω ―
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶