ボクとキミのものがたり
待っているボクは、何をしようか?
茹でる匂いが部屋にし始める。気温が上がるのを感じる。きっと火の傍にいるキミはもっと暑いよね。ちらりとキミを見ると 涼しげな表情に見える。
(暑くないのかなぁ)
いや、そんなはずはない。きっと出来上がる頃は、火照っているだろう。
ボクは、開け放した窓を閉め、先日準備の清掃を終えたエアコンのスイッチを入れた。
ボワァーという音に比べ、吹き出る風はまだ温い。
しばらく待ってみたが キミはまだキッチンの前。もうとっくに茹であがっただろう。
そうして 覗き見るボクと目が合ったキミが、にゃほぉーとした笑みを浮かべた。
「できたの?」
「はぁい」
とうもろこしが乗っているお皿を持って出てきた。フローリングの床の敷物の上の卓袱台(ちゃぶだい)に置くとちょこんと座るキミ。
茹で比べをしたとうもろこしが上下の方向を変えてあるようだ。
(おや?)様子の違うとうもろこしが一本。
「いい匂いがするね」
「コレ、食べて欲しいにゃん」
キミの示すとうもろこしは おや? ってやつ。さてどんな仕掛けがあるんだろう。
「これだね。じゃあいただきます」
あ!
とうもろこしの実の粒がところどころ抜けている。にゃんこのつまみ食いかな。
『LOVE スキ』
抜けたところがそう見える。
「此処の粒は 何処いったのかなぁ」
キミの笑顔が 待ってましたとばかりに明るくなった。
「はい、あーん」
「あーんってねぇ」
「だって、コレが肝心なパーツ。誰も見てないから。はい、あーん」
「ははは。こっちも文字になってるから」
キミの頬が膨れた。
「ハ抜けた 告白じゃダメにゃん」
「ま、そうだね。じゃあ一緒に食べないと。分けっこだね」
小さな器に入っている粒を摘まんでキミの口元へ持っていく。
「あ、指食べちゃ駄目だよ」
にゃん? キミは迷った素振りもなくボクの指までかぶりつく。
「あ…… まったく」
「あまいにゃん」
「あまいってねぇ」
毎回こんな調子だ。キミに言われるままにボクは口を開くとキミが粒を入れた。
「ね。甘いでしょ?」
「ほんとだ」
「にゃお。ねえ猫って とうもろこし食べるの?」
「さあ? でも このにゃんこが もいできたとうもろこしなら食べそうだね」
「にゃんこには もぎとるのは大変だと思うけどにゃぁ……」
まじなのか 愛嬌なのか 確かめることはやめておこう。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶