ボクとキミのものがたり
そして 本当のボクとキミのイベントの日は迫ってきた。
正直なところ、あの依頼がなければ 今も忘れていたかもしれなかった。良かったとやや安堵したものの 落ち着かなくなってきた。
お互いの気持ちは伝わり合っているだろうし、繋がっているくらいわかり合えているようにも思うのだけど、何を確かめる為に 何を告白すればいいのだろう。
出かけた帰り道、洋菓子店に立ち寄った。扉を開ける前から 甘い匂いが漂よってくる。ボクは、まるで蟻になった気分だ。目じりをやや下げて出てくる人と入り口で譲り合いながら流れを乱さず店内に入っていった。並べられた商品のリボンや装飾が多少違うのだろうか。いつもは キミの好きな色の世界で落ち着かないが 今日はややボクのような男でも照れずにいられる気がする。たぶん 此処の店主が照れ屋なのかもしれないなと想像した。
キミの好きなチョコレート。クッキー。何がいいかなぁ……
ボクの耳元に囁くキミの声が聞こえる気がする。
『キミの好きな じゃないよぉ キミのだぁーい好きな だもん。にゃん』
かなり重症だな……。この甘さから早く抜け出さないと陳列ケースや店内を見渡す。
ボクは、店内の忙しさに販売に駆り出されたような店主と一言二言会話して 彼の勧めてくれたセットを買った。ボクも 見た時から気に入ったものだった。
部屋に戻り、キミに連絡のメールをした。
『明日。当日限定 ボクの部屋へのチケットはお持ちですか?』
『にゃん』(まったく この返信はぁ)
ボクは、キミのご愛用の卓袱台の上に紙袋を置いたが、(いや待てよ)とキッチンの棚の中にしまった。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶