ボクとキミのものがたり
「内緒よ」と話始める。こんな経験は初めてだ。思わず聞き入って、酒も飲んでいた。
明るく振る舞うおかみさんも どこか孤独な自分を閉じ込め、心の中で交わることを拒否しているという。
恋相手のことを忘れられないのか、ボクの友人の彼にも好かれようとしたり 拒絶しようとしたりと揺れる思いが感じられた。もちろん 年の差も気にしているのだろう。
「偽り」という頭文字をかぶった優しさや見つめ合い、好意を持ち 真意の見えない言葉を交わしているような気がする。
きっと偽りなどないとすれば、はだ……。もしかすると、この二人には真実があったのかもしれない。だから、こうして 離れていられるのかな。
ボクは、お酒の所為だろうが、おかみさんのやんわりと語る話を子守唄のように睡魔と酔いに朦朧としてきた。
車を手配して貰い、ボクは、その店から辿り着いたのだ。(運賃? おかみさんが持ってくれたらしい。降りるとき 運転手が言っていたような)
ひとしきり酔ったボクにおかみさんが言った。
「生きて行くことって みんな「偽り」みたいなもの抱えてるのよ」
そんな哀しげな言葉だったが 心に綴っておこうと思う。
ボクが出逢った日のことも キミが語ったあのことも ボクには真実だ。
キミと居るなかで 偽りがあるとすれば、ひとつひとつ失くしていけばいい。
今日は、ボクからメールをしよう。
大好きなキミに『にゃんと啼いて欲しいな』って 偽りのない気持ちを込めて。
大切に持ち帰った かさかさな朱色のほおずきの実ひとつ。
ただそれだけなのに……。
― Ω ―
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶