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ボクとキミのものがたり

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約束の時間。彼は 既にそこに居た。
「待たせたな」
再会のときには、時間がぐっと戻って、あの頃の彼とボクがそこに居た。
出かける場所は、自宅仕事のボクよりは詳しい彼に任せた。彼は、よく利用しているらしい小料理店に連れて行ってくれた。店に入ると 店主と思われる女性が 出迎えるように微笑んでくれた。ボクの知る居酒屋とは 少し雰囲気が違って熱さより暖かさを感じる。まだ暑い時期、冷たいお絞りがでてきたのも嬉しい。
その女性は 着物を着ているのに気取った感じなく、袂(たもと)を帯に挟んでいるとはいえ 作業に邪魔していない動きに心惹かれた。
「いらっしゃい。お友だち連れて来てくださったの? ありがとう」
「話したことあったでしょう」
「ああ、そうなのぉ」
(そうなのぉって どうなのぉ……。よく来てるんだな)と彼がよく利用していることがわかった。
何となく意識して見ていたのか、中ジョッキのビールが出された時、彼に背中を叩かれた。
「おぉ うなじにでも 見惚れてたのか?」
「そんな、おかみさんに失礼だろう」
「あらいやだ。おかみさんだなんて 棚の上から見てるだけみたいなのは なしよ」
おかみさんは、奥への入り口に吊るされた草束から千切ると「これ どうぞ」とひとつの実を ボクの掌に乗せてくれた。
ほおずき。
そういえば、此処の店の壁に掛けられた小さな額に入った色紙や 壁に貼られたお品書きの紙の端にも ほおずきが描かれてある。
今更に気付いたボク。
店の名 『ほおずき』 

「おんびさん、豚角煮ください」
ボクは、彼が 聞きなれない呼び方をしたので すかさず聞いた。

話によれば、おかみさんは 店名と同じ「ほおずきさん」と呼ばれているらしいが、彼は「ほおずき」を漢字にすると「鬼灯」そして「ONIBI」で彼女からの愛がないから「ONBI」なったとか。面倒なことをと思うが、彼の好意の表れなんだろうと笑ってやった。
そんな話の中、ボクは、ほおずきばかりの絵の中に 真っ白い五弁の小さな花の写真を見つけた。なかなか話してくれない彼とおかみさんだったが、その写真は彼が贈ったものだった。ほおずきの真っ白い花。花は白いのに 実は、あんなにも赤くなる。食用にも薬用ににも変わるらしいことも話してくれた。ただし多用すれば、毒にもなりかねないとも。

作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶