㊙ 未知ワールドへ、ようこそ! 第1話 ㊙根暗出る樽 渓谷
1話 あの山に向かって
「やっと着いたわ!!」
山あいの無人駅、私たち三人はその開かれた改札を一列となって通りました。その後すぐに奈那(なな)はフーと息を吐き、高い声で唸ったのです。
「一昨年亡くなった父がノートに書き残していた秘蔵の旅プラン『未知ワールドへ、ようこそ!』がこの地からスタートするのね、感無量で……、協力を約束してくれたお二人さんに感謝感激雨あられだわ、ありがとう!」と。
これに、今は個人トレーダーとして『億り人』まで登りつめた山岸、別称・ヤッチンが「いやいや、相場師の俺にとってはこれも新プロジェクトへの単なる投資だからね」とサラリと返しました。
そして私、洋一は「奈那ちゃん、もう気遣いはいらんよ、単に俺は無機質な日常からの逃避、ただ知らない世界を見てみたいだけだから……、だけど俺は、ヤッチンのようにお金はないが、貧乏生活で鍛えた筋肉、それもないが、野生の勘と我慢強さで協力するよ」とちょっと心が捻(ねじ)れた反応をしてしまいました。
こんな阿呆な二人のリアクションに奈那ちゃんはニッコリ。そして眼前に迫り来る山々を指差し、「さあ、あの山に向かって突き進みましょう!」と♯(シャープ)3個分高く叫ばれたのです。
作品名:㊙ 未知ワールドへ、ようこそ! 第1話 ㊙根暗出る樽 渓谷 作家名:鮎風 遊