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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Pinwheel

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「竹下、休日にごめん。ひとつ、見つからない資料があって」
 その資料は、参考にするためにわたしが自分のデスクに置きっぱなしにしていたやつだった。わたしは思わず電話越しに頭を下げた。
「ごめんなさい、それはわたしのデスクにあります」
「あーっ、目の前にあるじゃん。ごめんな」
 小川の慌てる声を聞いていると、今の自分がどれだけ恵まれた立ち位置にいるか、実感が湧いた。
「あの、主任。こんな機会をいただいて、本当に感謝しています」
 わたしが言うと、小川は電話の向こうで笑った。
「この手の装置は、倫理観が試される」
 わたしが駅の改札をくぐったとき、小川は続けた。
「君に昇任の話をした前日ね。今野は子供時代まで飛んで、自分が死なせてしまったハムスターの命を救おうとした。それは倫理的に許されないから、外したんだよ」
 ホームに上がるエスカレーターに乗ったとき、わたしが相槌を忘れていることなどお構いなしに、小川は続けた。
「まあ、死んじゃったものを取り戻すためならね。その気持ちは分かるんだけど。じゃ、また来週」
 そう締めくくると、小川は一方的に通話を終了させた。エスカレーターを上がりきって、わたしは思った。
 また来週。
 それを期待していたのに、未来のわたしは何もしてこなかった。これだけ好き勝手にできるのなら、過去の自分にちょっかいをかけているらしいわたしは、同じ家に住んでいるどころか、スマートフォンも変わっていない。昔からそうだったけど、未来のわたしも物持ちが良すぎるようだ。そして、その性格は誰よりもよく分かっている。
 わたしは、一度取り組んだことは結果が出るまで諦めない。
 じゃあ、助けに来なくなったのは、何故? 
 ホームに電車が到着したとき、わたしはドアが開くのを遠くでずっと見ていた。見えやすい位置に遠山が立っていて、周囲を見回している。その余裕のない目つき。わたしが時間通りに現れないと分かったとき、遠山は明らかに不機嫌な顔になって、駆け込み乗車をした子供に足を引っかけて転倒させた。わたしがいないということが分かっても、電車から降りてすら来なかった。
 ホームから離れて、わたしは階段を駆け下りた。こんなに好きだけど、もう会えないよ。
 だって、分かったんだ。わたしは、いつか分からない未来のどこかで。
 あなたに殺されたんだって。
作品名:Pinwheel 作家名:オオサカタロウ