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彼があるふうに見たとしてそれがそなたにとって何の用があるのか

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 昔わたくしがアルバイトをしていました折、業務のある点に倫理的な問題がある、改善すべきであると指摘しましたところ、わたくしの上司と称する方--わたくしはそれを承認した覚えがないのですが--がやってきて、「ちょっといいかな」と言うのです。それで別室に連れていかれまして、彼はインターネットで「倫理」という言葉を検索し始めました。そうです、彼は倫理について学んだことも、思索したこともなかったのです。
 こうした人は、実は少なくないのかもしれません。その原因等については、別のシンポジウムを開いて探求する必要があるでしょう。

 ある人類学なり生物学なりを学んだ人が、ある人に「あなたは蒙古襞があって美しくないですね」と言われたらどうでしょうか。
 いい気はしないでしょう。でも彼は自分の蒙古襞が、自然淘汰か性淘汰かの結果かもしれないというような発想を持ち得ますから、逆上したり、取り乱したりはしないかもしれません。少なくとも、翌日美容整形クリニックに走って行きはしないのではないでしょうか。
 自分の蒙古襞が、自分の祖先たちの生きる努力の結晶である、というような感動なら抱いても不思議ではありませんけれども。

 また、あるブッダシャカムニのファンで、スッタニパータとダンマパダをことあるごとに読み返しており、倫理学も学んでいるというような人が、ある人に「あなたは蒙古襞があって美しくないですね」と言われたらどうでしょう。
 彼は怒りはしないまでも、
 「わたくしに蒙古壁があることがあなたにとって何の害を及ぼすのか。あなたの行いは正しくない。それはあなたにもわたくしにも役に立たないからである。わたくしはブッダシャカムニが言っていたことをあなたに言いたい気持ちが生じたからそれを言おう。他人がしたこととしなかったこととを見るな。自分がしたこととしなかったこととを見よ」
 と抗議の意思を示すかもしれません。いずれにしましても美容整形クリニックの予約はしないだろうことについてはわたくしが請け合いましょう。

 わたくしにはこれこそが自明のことに思えるのですが、少なくない方が信じていないことがあります。およそ物事とは多面的である、ということです。
 小学校に入学して、唐突に学問をせよと言われた子供が発するあの質問、
 「どうして学問をしなくちゃいけないの?」
 に対して、わたくしは次のように答えたいと思います。
学問をすると--ここでわたくしが言う学問とは、多様な分野を広く学び比較したり結び付けたりすることを言うのですが--物事を多面的に見ることができるようになるから、役に立つんだ。学問をすれば、君の蒙古襞と、心とは、安らかでいられる、と。

 さあ、以上わたくしの「学問のすゝめ」、大団円ということでよろしいでしょうか。あとはAIなどと違ってユーモアを楽しめる者同士、人間らしくお茶とお話などいたしましょう。