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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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草餅の色(続・おしゃべりさんのひとり言157)

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草餅の色



「草餅てな~んだ?」
こう聞かれて、その草の種類って何か分かりますか?
答えは、『ヨモギ』ですね。日本人なら常識とまで言わないけど、割りと当たり前です。
では、「原っぱでヨモギを採って来て」って言われたらどうします?
ヨモギがどんな草か分からない人もいると思うけど、大体は「これだよ」って教えると「ああ、これがそうか」と見たことのある人は多いと思うよ。
古来より、お灸の『もぐさ』としても使われてる薬草の一種で、日本中どこの草むらにも生えていますもん。見たことない人なんて、いないんじゃないかな。
葉を摘むと、独特の爽やかな香りがします。
「じゃ色は?」って聞かれると、
「緑でしょ」って答えると思うけど、その緑にも色々あるじゃないですか。

子供の頃、僕のばあちゃんが正月前に餅つきをして、鏡餅を準備するのを手伝うことがよくありました。毎年恒例の年末のお楽しみの一つです。
白い普通の丸餅と、桜エビ入りのピンク、栃の実入りの茶色、紅紫蘇入り紫、そしてヨモギの入った草餅なんかも作りました。
つきたては美味しいよ。熱々のうちに餡子を入れると最高だ。醤油に付けても、きな粉砂糖にも、納豆に巻いたりも好きだった。
乾燥すると、焼き餅にするんだけど、その場合はパックのお茶漬け海苔をかけて、雑煮風茶漬けでいただくのが好きです。
もっと乾燥が進むと、包丁で出来るだけ薄くスライスして、オーブントースターで焼いたり、油で揚げたりして、煎餅やあられにしても長ーく楽しめます。

子供の頃って、幾種かのお餅の中でも、草餅は一番遠慮する種類のお餅でした。まさか、あんな雑草を混ぜてるなんてこと自体が衝撃でしたけど、ほとんどの子供は知りませんから、僕は秘密を知っているつもりでした。
大人になってからは、正月の餅をつくなんてこと無くなってしまって、市販の鏡餅を買うのがほとんどですよね。
でも草餅に関しては、切り餅では売ってないでしょ。ばあちゃんの草餅も記憶の片隅にしかありません。
そしてその色は。『深緑』だと思っていました。少し繊維質の葉っぱの破片が手すき和紙の模様のようになってる感じが、僕の持つ草餅のイメージです。
それがですね、中学の頃、近所の大手チェーンのパン屋さんに、大量生産されたような草餅が個包装で売られてたんですが、その色がなんと『黄緑』だったんですよ。
「へ? 何これ? 色粉で着色した?」そう言わざるを得ないような違和感でした。
安い三色団子の黄緑みたいな色していましたが、人工的な色合いであることは間違いありません。
それからもスーパーやコンビニで売ってる草餅は、なぜか明るい色をしていて、僕にとって、本物とは程遠いイメージだったんです。
(体に悪るそう)って思ってしまいます。
本格的な和菓子屋で売ってる草餅は、どれも暗~い『深緑』です。だからこれは安心して食べられます。でも『黄緑』のは、どうにも・・・
それが時代の変遷とともに、徐々に『黄緑』は無くなってきて、代わりに増えだしたのは、鮮明な『グリーン』でした。
『黄緑』ほどの違和感は薄れましたが、それでも人工的な色のように思えて、気色悪いです。

原材料を確認すると、やはり着色料は使われているようですね。
ということはですよ、(草餅なのに、ヨモギの葉はどれくらい入ってるんだ?)って疑問が湧いてきます。
よく見ると細かい点々のように、何らかの混ぜ物が見えます。これがヨモギなのか、或はヨモギを原料としたエキスパウダーのようなものなのか?
それじゃ風味が薄くなるでしょうから、やっぱり香料も入ってるって訳ですね。
何でこんな面倒なことするんでしょう? ヨモギの葉っぱを茹でて、餅に混ぜてつくだけで作れるものなのに。
いや、よく考えると、そういった市販の草餅は、時間が経っても固くならないぞ。
これはおかしい。つまりお餅じゃないってことだ。上新粉や餅粉で煉られた団子のような饅頭です。餅とは味も違います。
ま、それは仕方ないかと思います。固くなったら商品価値下がりますし、逆に固くならないように工夫されていて、お見事です。
でも色についても、深緑より鮮明なグリーンの方が印象がいいってことなのか?

こんなふうに市販品については、僕自身が持つイメージとのギャップで、ずっとジレンマのような気分でいたんですが、それを覆す事実と出会ったんです。
それは滋賀県の老舗の和菓子屋さんが、洋菓子も展開して、最近では大都市のデパ地下でバームクーヘンで有名になったって言うと、(あの店のことかな?)って気付かれる方もいるかと思います。
僕はそこの草餅を見て、失笑していました。
『どグリーン』でしたから。超グリーン、どこにも負けないくらい鮮明なグリーンだったから。
少し前に、その会社の若旦那(副社長だったと思う)がゲストの公演があり、それを聞きに行きました。
すると僕が気なっていた「草餅の色」について言及されたんです。
もともとその和菓子屋では、中国産のヨモギを独自ルートで輸入して使用されていたんですが、視察の際、中国の加工工場で驚きの現場を見たそうです。
衛生的にNGなことが多く、指摘を改善する様子が無かったので、結果、取引を中止する判断に至ったそうです。
では代わりにヨモギをどこから仕入れるのか?
その会社の方針は、「信用できる農場から仕入れよう」という事で、地元滋賀県は東近江市に専用農場を作り、契約農家にヨモギの栽培を委託された経緯があったそうです。
でも現材料が変わってしまって苦労もあったようで、「今までみたいな草餅らしい深緑にならない」と言うんですよ。
ん? 草餅らしい深緑?(そうか、やはり僕の知ってる色が本来の草餅の色なんだ)と思いました。ところが、
「色が真緑になってしまうんです」と話されたんです。
どういうことかって言うと、中国から仕入れていたヨモギは、一旦乾燥させて輸入され、それを水で戻して使用すると色は『深緑』になる。でも、地元で収穫した新鮮な生葉を茹でて草餅をつくと、『鮮明なグリーン』になってしまって困ったそうです。
お客さんからは、「変な着色料が入ってる」って噂されるし、逆にイメージダウンにつながるんだそうです。
じゃ「もっと落ち着いた色に調整しようか」という意見もあったそうですが、この若旦那は、「胸を張って売り出そう」と決断したのだそうです。

(そうだったのか)と僕の疑問は晴れました。お店に並んでいたあの“どグリーンの草餅”は、新鮮なヨモギを使ったからこその『本物の色』だった訳ですね。
よく考えたら、ばあちゃんの草餅を年末に作ってたということは、新鮮なヨモギじゃなく、冷凍庫とかで保存しておいた材料でついていたはずだから、色が鮮明な緑じゃなくなってしまっていたという訳か。

これじゃ、色味で、草餅の品質を見分けるのが難しくなってしまった。
だって、色粉で着けた緑との見分けが付きませんもの。なるべく老舗の和菓子屋で買うしかなくなるじゃない。
いや、どこにでも生えているし、簡単だから自分で作ればいいんだよ。


     つづく