泣き虫さん(続・おしゃべりさんのひとり言145)
泣き虫さん
なんで涙は流れ出す?
「女の涙にゃ弱いなぁ」なんてことをよく言いますが、涙に関して僕は、その女より弱い(もろい)んだよね。
涙は悲しいと流れるし、喜んでいても流れるよな。
僕なんかテレビ見ていて、マラソン選手がラストスパートした瞬間、涙が出ます。
→応援してるわけでもないのに、なんで?
バンドコンサートで、『オペラ座の怪人』をメタルアレンジで歌ってるのを聴いて、涙が出ました。
→そのオペラ自体、観たことないのに、なんでやろ?
部下の女性社員の結婚式の祝辞に立って、涙が出ました。
→好きだったとかじゃないのに、なんでやねん? 恥ずかしかったわぁ。
最近では、ゴジラが登場するシーンの大音量のBGMに、涙が出たばかりです。
→何度も似たようなシーン観たことあるやろ! なに興奮しとんねん!
聖母マリア像やキリスト像が涙を流す都市伝説のように、その理由が分からない。
感動したら涙は流れるんか?
僕はこの生理反応をうまくコントロールできないんです。
つまり我慢してもダメ。
笑いを堪えきれないってことがあるみたいに、涙を堪えられない。
厳粛な場所で、笑うとダメだし、いくら腹が立っても、怒っちゃダメでしょ。
でも、涙を流しちゃダメってシチュエーションってある?
そうそう泣くもんじゃないかもしれないけど、「わーんわん」泣くんじゃなくって、ポロっと、いや、ポロポロと涙がこぼれても、嫌な顔されることは無いと思う。
逆に笑われることの方が多い。
だから、つまり、それで、僕は涙を流したくないんです。
父の葬式では、忙しくて考えることが多すぎて、悲しんでいる暇さえなかったのに、最後の喪主の挨拶の時だけ約1分間、僕は話しながらずっと涙が止まりませんでした。
声はちゃんと出るんです。予定していたスピーチはスラスラ出来てるのに、涙だけジャージャー流れてたんですよ。
こんな葬式の挨拶見たことありますか? 涙に声が詰まって、というのが普通でしょ。
それで『涙』とは何なのか、調べてよく考えてみました。
その成分のほとんどは水分ですね。目の近くの涙腺にまでそれを運んで来るのは血液だそうです。
血から血球を取り除いたものが涙で、タンパク質や塩分も含んでいます。
大泣きしたら目が腫れるのは、涙が弱アルカリ性なので、弱酸性の皮膚との中和反応で化学変化が起こりヒリヒリするからかもしれません。
主に眼球の保護、潤滑材としての役目を担っていて、目にゴミや花粉が入ると、それを洗い流そうと涙が湧き出して、細菌などから目を守ります。
確かにこの場合の涙は理解出来るし、「目への刺激」が発端というのは納得がいく説明です。
単に強風が目に吹いただけでも涙は出るし、強い光を見ただけでも出ることもあるそうです。
また、流涙症(りゅうるいしょう)という病気があって、日常の涙腺から分泌された通常量の涙でも、目の内側から鼻腔へ流れる涙道のどこかで詰まりやすいと、涙が溢れるというのですが、僕の場合、普段は全く涙が漏れるなんてことはありませんし、目ヤニに困るようなこともないですし、このような症状には当てはまりません。
目ヤニで思い出すのが、犬がよく、目の内側の下に涙の痕跡のように筋を付けているのを見かけますよね。
動物も目の防御反応として涙を分泌するという訳でしょう。
僕も飼っていた犬の目ヤニを毎日拭いてあげていましたけど、その犬が涙を流しているところなんか見たことありません。
ウミガメが産卵時に涙を流す映像はよく見ますよね。あれは体内の塩分を排出する器官が目の近くにあるので、涙を流しているように見えるだけです。
産卵時以外も常にそこから塩分を垂れ流している事実を僕は知っていますので、今回の議論の対象外です。
ではもっと知能の高い動物ではどうでしょうか。
脳神経の研究で、怒り・悲しみ・喜びの脳波のパターンが、人間もサルも似ていることが判っているそうです。
それはきっと感情があるってことですよね。サルもその涙は(目の防御反応以外に、感情で流すこともあるのかも)と思ってしまいます。
実際、ダーウィンをはじめとする動物学者の報告では、動物も泣くと言われていることが多いそうですが、直接動物に聞いた訳じゃないので、涙を流している理由は動物学者の観察だけでは証明できません。
ヒトに一番近い類人猿(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、ボノボ)もホロホロと涙を流す姿を見せるようです。脳波もヒトにかなり近いので、やはり感動の涙を流すのかもしれませんよね。
でもそう言い切れない理由があって、ヒトの赤ちゃんは母親を求めて涙を流して泣くのに対して、類人猿の赤ちゃんは泣かないんだそうです。まだ感情が育ってないからでしょうか?
作品名:泣き虫さん(続・おしゃべりさんのひとり言145) 作家名:亨利(ヘンリー)