娘と蝶の都市伝説8
「ネアンデルタール人は遺伝子の変異で倍々ゲームのごとく人口が増え、すぐにでもヨーロッパ全域とその周辺域を制覇(せいは)する勢いでした。数十年で地球は満杯です。人であふれた地球は、どうなるでしょう。生き残るため、あらゆる自然は競争で利用され、争いがおこり、破壊されます。最後は砂漠化します。仕方がなかったのです。
ネアンデルタール人が滅びても、ホモ・サピエンスがいるので、バランスは保てるはずでした。でもこれは誤りでした。ホモ・サピエンスの中に、遺伝子の変異種があらわれたのです。しかも、彼らはネアンデルタール人とはまったく違っていました。地球上の人間の不幸のほとんどは、限りない強欲思想を持った彼らがもたらしたものだったのです。
共存共栄で生きてきた地球上の通常の民族のほとんどを、彼らが滅ぼしてしまいました。彼ら特異のDNAがそのようにさせてしまうのです。そんなとき、わたしたちは地球を守る微生物たちの意志でまた呼ばれました。放っておけば今度こそ地球が破滅します。北の神の山の梅里雪山にいたわたしと、南のジャングルの神の古木にいた超粘菌BATARAが合体し、地球のリーダーにふさわしくない人間たちの削除、という範囲で手をうったのです。
感染者は早くて半月、遅くて一ヶ月で亡くなります。しかし、それより以前にテイクアベニューの連中はわたしの存在に気づき、調べようとするでしょう。でもわたしについては関係者に訊問しても、だれもなにも知りません。
香港まで足跡をたどれたとしても、その後は路線バスを利用し、たった一人でここまでやってきたので、追跡は不可能です。もっとも彼ら種族は一年もあれば完全に滅びるので、一年後に、わたしたちは自由です。どこにでも自由に住めます」
秦は、秦国雲南薬草書簡とともに伝わった秦家の古文書に記された地図に導かれ、雲南省の梅里雪山にたどり着いた。
古文書には、文字もない遠い過去に、娘を追ってきた古代の父親の意志が籠っていた。
そして、言い伝えを守って娘を救い出そうとした代々の男たちであったが、果たせず、縄文後期の時代(弥生時代)の秦にその意思が受け継がれ、ついに現生の秦周一によって願いが叶ったのである。
そして遠い遠い時代から蘇ったその娘が、妻の明日子や娘の雪子の面影を残しながら、いま父親の秦周一に語りかけているのだ。
「お父さん、二、三日したら薬を処方する者が着いたと地域の指導者に知らせます。きっと病人や怪我人がどっと押し寄せます。ずっとお医者さんがいませんでしたからね。二人でがんばりましょう」