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娘と蝶の都市伝説4

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新聞はいっせいに、アメリカの正義を書きたてた。

武器はすでに、隣国ホンジェラスに送ってあった。
このとき反政府の狼煙をあげたリーダーは、過去に反逆罪の罪でグアテマラから追放されたアルマス大佐であった。

ホンジェラスの基地からアメリカ空軍の飛行機が飛び立ち、グアテマラを空爆する。
解放軍も、ホンジェラスからグアテマラに進行する。
ユナイテッドフルーツ社が、白いバナナの輸送船で武器や弾薬を解放軍に運んだ。
解放軍は250人しか集らなかったが、ラジオは5,000人が進行中だと放送した。

グアテマラ政府軍から見れば、解放軍の要請でアメリカ軍が出動しているのだから、実際の敵はアメリカ軍である。
アメリカは、新聞、ラジオで『正義と民主主義を守る戦い』をうたい、いつものフェイクニュースで自国民から絶対的な支持を得ていた。

グアテマラのアルベンス大統領は、民主主義国家を放棄せざるを得なくなった。
アルマス大佐が大統領に就任し、ユナイテッドフルーツ社は農地を取り戻した。
その後、グアテマラの軍は右派と左派に分裂し、右派はアメリカと結託し、反政府の労働者や農民を虐殺《ぎゃくさつ)する。左派は農民や労働者と手を握り、ゲリラとなる。

アメリカは反政府のゲリラを、いつものようにテロ集団と呼んだ。
以降、グアテマラは三十六年間も内戦状態がつづき、二十万人もの犠牲者だした。
利権者たちは独裁者を擁立《ようりつ)し、莫大な金銭で取り入る。
そして自分たちに有利な法律を作ってもらう。
都合の悪い指導者はマスコミがよってたかって悪者に仕立て上げ、権力の座から引きずりおろす。

暗殺はあたりまえ、緊急の病にかかったように見せかけ、病死させたり、自殺を装わせたりする。
ある国が、飢える民のない平和で豊かな国を造ろうとしているのに、自分たちに利益をもたらさないからと、マスコミを使いリーダーを悪者に仕立てあげ、その国を潰す。
この地球上には、そんな行為を平気でやってのける人間たちがいるのだ。



微生物の仲間であり、超粘菌の集団である蝶は、だれがいうでもなく、急ぎに急いだ。
悲惨な南米の過去や現実から逃れるかのように、けんめいに羽ばたいた。
しかしその一方で、ニューヨークという、逃げているはずの嫌なものの中心に向かっているのである。

ニューヨークという言葉を脳裏に浮かべると、長老の頭が熱くなった。
すると以心伝心《いしんでんしん)、蝶の各部の超粘菌たちも『ニューヨーク、ニューヨーク』とつぶやき、羽ばたきが強くなった。

『彼らはあらゆる手段を用いて他を支配しようとしているが、最終的にはなにがしたいというんだろう?』
長老に浮かんだ疑問だった。

チリのサンチャゴで話を聞いたときから、なにかがすっきりしなかった。
彼らの欲望は果てしなく、他を圧倒する力でさらに大きく強くなる。
マスコミを自分のものにし、フェイクニュースをながし、暴力、陰謀、策謀を重ね、やりたい放題だ。
しかも彼らは自称、自由と民主主義、そして平和を愛する世界のリーダーなのだ。

そのやり方を、野心を抱く世界の権力者が真似るようになる。
その優等生の代表は、唯我独尊《ゆいがどくそん)の中華人民共和国である。
三千年の歴史などというが、三千年間は絶え間ない殺し合い──戦争の歴史だ。
その間に築かれた国家はすべて異民族のものであり、現在の漢民族の国は七十余年しかたっていない。

そして共産党のトップのエリートたちは、都市に住む三億の中間層を基盤に、残りの約十一億の奴隷農工民に等しい国民を搾取するのである。
かつ周辺の国や自治区の民族を、資源強奪のために殺戮《さつりく)し続けながら、国連の人権委員会(人権理事会)の委員をこなすという離れ技をやってのけている。

いつからこのような生き物がはびこるようになったのか。
「だれも、やつらを止められないのか」
「世界のリーダーは金儲けで忙しい」
「近頃は植物の遺伝子にまで手をだし、他国に強制しだした。その畑には雑草も生えず、経済効率がいいんだと」

「動物の遺伝子にもだ。太る豚とか牛だとかだ。足が五本もある鶏もだ」
「金儲けのために生態系をいじるな」
「変なことをすれば、取り返しがつかなくなる」
BATARAたちが次々に口にする。

⦅そうだ……そのために、娘さんと力を合わせるんだ⦆
すると、そんな呼びかけが聞こえた。
長老ははっとなって頭上を仰いだ。

蝶の視覚を通した空と白い雲がまぶしい。
ぎゅっと目をつぶり、また開けてみた。
陽光が一筋、脳裏を貫いた。
小さな点々が無数に散り、くるくる回って落ちてくる。

フタバガキの木の葉だった。
同時に、ばりばりばりっと枝や梢のへし折れる音。
周囲に茂っていた木々が一瞬にして失せ、一面の砂漠になった。
長老は大木の幹の上に立ち、あたりを見回した。
ぐるり砂の地平線だった。
頭上の太陽だけが以前のままだ。

アジアや南米だけではない。
アフリカでの乱開発は、狂気といえるほどの勢いである。
しかし、豊かになりたいと願う新興国の人々の願望は、だれにも否定できない。
テレビや映画で観る、先進国の国民のようにエネルギーを使い放題、食いたいものを食いたい放題の生活はみんなの憧れだ。

もう地球は限界だから、あなたたちはやめなさい、などとはだれにも言えない。
自然破壊による生物絶滅危惧種《きぐしゅ)は、二万二千種。
EUでは二十年前と比べ、すでに八十パーセントの昆虫が滅びた。
その規模とスピードは、恐竜が死に絶えた白亜紀《はくあき)の危機を超越している。

だが、明日明後日に地球が滅びる訳ではない。
ゆっくりじっくり、百年二百年をかけ、あるいは千年単位で終焉《しゅうえん)に迫る。
そして、過去の文明国家がそうであったように、そのときは突然やってくる。
この流れは、地球のリーダーがふりまいた価値観が変わらない限り止まらない。

「長老、前方が碧《あお)く輝いています」
レーダー係の報告だった。
一面にコバルトブルーの海が、深い色をたたえていた。
カリブ海を渡ってキューバを横切り、フロリダ半島上空からアメリカに入るのである。
長老は、彼方のブルーの輝きに目を細めた。ほっとした気分だった。

⦅ニューヨーク……ニューヨーク……娘さんはニューヨークにいるようです⦆
パルスが、今度はそんな風に伝えてきた。
『そうだ。前に会ったのは三万年前だった……』
長老は、ふいに毛皮をまとったしなやかな彼女の姿を思い出した。

作品名:娘と蝶の都市伝説4 作家名:いつか京