娘と蝶の都市伝説1
娘と蝶の都市伝説1
1ー0 隠れたある集団について
1
⦅こんなときがあろうかと、寒い山と熱いジャングルに待機してもらっていた⦆
⦅計画どおりにやろうではないか⦆
⦅そうだ。計画どうりだ⦆
だれが言いだした訳でもない。
不安は自然に湧きあがった。
その危機感が他の集団に伝播(でんぱ)し、パルスを交わすようになっていた。
⦅でも、前回ように全滅の必要はない⦆
⦅今回は一部を滅ぼすだけでいいな⦆
⦅そして、ようすをみよう⦆
⦅うん、それでいい⦆
⦅賛成だ⦆
⦅賛成だ⦆
賛成の声が、パルスを交わす世界のあちこちから湧きあがった。
2
⦅娘さん目を覚ましてください。また協力してもらいます⦆
だれかに呼びかけられた。
遠い過去からの声のような気がした。
だれだったろう?
⦅約束しましたね。あなたが必要なのです⦆
約束……わたしが必要……。
わたしのおぼろな記憶が、かすかにゆらいだ。
からだの奥の芯が、ぽっと温かくなった。
それが、ゆっくり全身に拡がっていった。
⦅あなたは、だれ?⦆
覚醒(かくせい)する意識の中で、わたしは問いかけた。
⦅そのうち思い出します。また出番がきたのです⦆
目覚めなければならないんだ……。
ぼんやり、わたしはそう考えた。
3
地球にはじめて誕生した生き物は、微生物だった。
千分の一ミリほどの細菌(バクテリア)、古細菌、ウイルス、菌類などである。
微生物は、一つの細胞でできた単細胞の生き物である。
単細胞の生物は、やがてDNAを獲得し、37億年という長い歳月をかけ、徐々に進化した。
その革新的な進化は、異なる細胞との合体だった。
多細胞の(たさいぼう)生物の誕生である。
地球上に、植物や動物が生息するようになったのだ。
こうして微生物たちは異なる細胞たちが協力し合い、新しい生命となり、種となった。
植物であれば、その宿主の茎(くき)や根の内部に住み、養分の補給、機能の補助、耐病・耐虫などの役割を担(にな)った。
動物である人間の場合であれば、主に1.4キロほどが腸などに住み、食物の消化を手伝い、病原菌と戦い、体内の臓器をコントロールした。
微生物たちは、地球上に『共存共栄』のルールをつくったのである。
また微生物たちは、地球上の廃棄物を分解し、すべてを土に還(かえ)す仕事を担った。
土がなければ植物は育たない。動物たちは生命を維持できない。
緑の地球は、微生物がいなければ、ただの岩と砂の星と化してしまうのだ。
さらに微生物たちは、DNAが与えた集団感知というセンサーを備えていた。
生態環境を守るため、危機を感じ取ると、仲間たちとパルスで情報を交換し合うのである。
微生物は、自分自身を守るため、地球の生物環境を保持するため、パルスという言葉を使ったのである。
こうして地球は、微生物が編みだした共存共栄のルールを基本に、様々な生き物が繁栄する星になった。
ところがここで、生物界に気になる種が出現した。
その種は、多細胞生物として進化を重ね、二百万年前に大変身をとげた。
獲得した英知を駆使し、たちまち地球上の頂点の生き物として君臨するようになった。
そして一部の種が、地球の生命体たちが数十億年をかけてつくりだした共存共栄のルールを無視しはじめたのである。
微生物たちには、地球を永続的に維持する使命があった。
自らの繁栄のみを願う利己的な行為は、地球の破滅につながりかねなかった。
わずかな兆候であっても、それを見逃してはならなかった。
1ー0 隠れたある集団について
1
⦅こんなときがあろうかと、寒い山と熱いジャングルに待機してもらっていた⦆
⦅計画どおりにやろうではないか⦆
⦅そうだ。計画どうりだ⦆
だれが言いだした訳でもない。
不安は自然に湧きあがった。
その危機感が他の集団に伝播(でんぱ)し、パルスを交わすようになっていた。
⦅でも、前回ように全滅の必要はない⦆
⦅今回は一部を滅ぼすだけでいいな⦆
⦅そして、ようすをみよう⦆
⦅うん、それでいい⦆
⦅賛成だ⦆
⦅賛成だ⦆
賛成の声が、パルスを交わす世界のあちこちから湧きあがった。
2
⦅娘さん目を覚ましてください。また協力してもらいます⦆
だれかに呼びかけられた。
遠い過去からの声のような気がした。
だれだったろう?
⦅約束しましたね。あなたが必要なのです⦆
約束……わたしが必要……。
わたしのおぼろな記憶が、かすかにゆらいだ。
からだの奥の芯が、ぽっと温かくなった。
それが、ゆっくり全身に拡がっていった。
⦅あなたは、だれ?⦆
覚醒(かくせい)する意識の中で、わたしは問いかけた。
⦅そのうち思い出します。また出番がきたのです⦆
目覚めなければならないんだ……。
ぼんやり、わたしはそう考えた。
3
地球にはじめて誕生した生き物は、微生物だった。
千分の一ミリほどの細菌(バクテリア)、古細菌、ウイルス、菌類などである。
微生物は、一つの細胞でできた単細胞の生き物である。
単細胞の生物は、やがてDNAを獲得し、37億年という長い歳月をかけ、徐々に進化した。
その革新的な進化は、異なる細胞との合体だった。
多細胞の(たさいぼう)生物の誕生である。
地球上に、植物や動物が生息するようになったのだ。
こうして微生物たちは異なる細胞たちが協力し合い、新しい生命となり、種となった。
植物であれば、その宿主の茎(くき)や根の内部に住み、養分の補給、機能の補助、耐病・耐虫などの役割を担(にな)った。
動物である人間の場合であれば、主に1.4キロほどが腸などに住み、食物の消化を手伝い、病原菌と戦い、体内の臓器をコントロールした。
微生物たちは、地球上に『共存共栄』のルールをつくったのである。
また微生物たちは、地球上の廃棄物を分解し、すべてを土に還(かえ)す仕事を担った。
土がなければ植物は育たない。動物たちは生命を維持できない。
緑の地球は、微生物がいなければ、ただの岩と砂の星と化してしまうのだ。
さらに微生物たちは、DNAが与えた集団感知というセンサーを備えていた。
生態環境を守るため、危機を感じ取ると、仲間たちとパルスで情報を交換し合うのである。
微生物は、自分自身を守るため、地球の生物環境を保持するため、パルスという言葉を使ったのである。
こうして地球は、微生物が編みだした共存共栄のルールを基本に、様々な生き物が繁栄する星になった。
ところがここで、生物界に気になる種が出現した。
その種は、多細胞生物として進化を重ね、二百万年前に大変身をとげた。
獲得した英知を駆使し、たちまち地球上の頂点の生き物として君臨するようになった。
そして一部の種が、地球の生命体たちが数十億年をかけてつくりだした共存共栄のルールを無視しはじめたのである。
微生物たちには、地球を永続的に維持する使命があった。
自らの繁栄のみを願う利己的な行為は、地球の破滅につながりかねなかった。
わずかな兆候であっても、それを見逃してはならなかった。