血の臭いの女
「一人二役と二人一役のコンビネーションに、昔でいうところの、死体損壊トリックの常套手段である、立場が入れ替わった犯罪」
ミステリーをずっと書きたいと思っていた美穂にとって、実に興味深い犯罪ではないだろうか?
「私だったら」
と美穂は感じていた。
どのようにするというのだろうか?
今回は、自分の知らないところで、男たちが暗躍していたのだろうが、美穂がいろいろ読み込んできた小説のトリックなどを重ね合わせてみると、一つの仮説が生まれてきた。
それは、警察がこれから捜査することで判明していること、そのものであり、
「まるで、犯人は、この私なんじゃないかって思えてくるわ」
というものであった。
そこには、男同士の最近はやりの、
「BL」
つまりは、ボーイズラブ、衆道、男色と言われるものが蠢いているのだった。
まさに、
「蠢いている」
というのが、ピッタリである。
美穂は、
「私の前世は、ひょっとすると、戦前戦後に活躍した、プロの探偵小説家ではなかった?」
とさえ思えた。
美穂はこの話をミステリー小説として起こした。それを出版社に持ち込むと、何と、
「面白い」
と言われたのだ。
「まるで、体験してきたことのようで、実に生々しい。これはもはやミステリーではないね。オカルトチックな内容を含んでいることから、新ジャンルだといってもいい。この変質的なところが、昔の探偵小説の、変格探偵小説と言われたものに似ている。そう。SMだったり猟奇殺人などというものを前面に押し出すのが、変格探偵小説なんだけど、このお話は、そんなものがなくても、十分、オカルト的な要素を含むことで、成り立っているのではないかな? そう、今までになかった、ミステリーの新ジャンルとして、君が先駆者になれるかも知れない」
と、編集部でも、興奮気味だった。
美穂も有頂天になっていたが、編集部が、実は美穂が、かつて、自分の部屋に盗撮カメラを仕掛けた男たちを葬り去ることを計画し、まんまと警察にも捕まらず、今は、
「絶対に見つかるはずのない犯人」
つまりは、
「架空の男」
を探し回っていることで、自分が絶対に安全であることにほくそえみ、
「すぐに、お宮入りになるさ」
と思っているとは、さすがの編集長も思っていなかっただろう。
「悪魔のような小説を、経験談から書いたことで、その生々しさが、完全に血の臭いによって、自分を、一人二役にも、複数役にもしてしまう」
それが美穂だったのだ。
ただ、こんな恐ろしい怪物のような女を生んだのは、まさに世の中の理不尽さからくることだとは、どうせ誰にも分かるはずなどないのだから……。
( 完 )
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