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ふたりでリハビリを (掌編集・今月のイラスト)

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「だけど寝てばかりじゃ筋肉が落ちるばっかりだよ」
「それは骨がぴったりくっついてから、また手術受けたいって言うなら止めないけど」
「はいはい、わかりました、仰せの通りに」

「なんか療養士さんが勘違いして変なこと言って、ゴメン」
「変なこと……ですか?」
 義彦の病室に戻り、傍らの椅子に腰かけて話す。
「いや、その……好きな子が来てくれるって言ったのは、まあ、ホントだけどね……」
「……初めて知りました……」
「俺、高校生の頃からバイクに夢中でそればっかりでさ、女の子と付き合ったこともなかったし、その、なんだ、どう言っていいのかもわからなくってさ……沙耶ちゃんはいつも勝のそばから離れなかったし……」
「私……」
「あ、気にしないで、今の忘れちゃっても良いから」
「私も男の人とお付き合いしたことなくて……」
「あ、そうなの? それは……その……嬉しいけどさ」
 その日はぎくしゃくしたまま面会時間も終わったが、それからというもの、沙耶はしばしば病院に出向いた。
 でも、義彦はそのことに触れることはなかった。
 その代わり見せてくれたのは、一生完治しないかもしれない大きな怪我を負ったにもかかわらずレースへの復帰を目指して懸命にリハビリに励む姿。
 そして沙耶も義彦と共にリハビリをしていた。
 兄の死を乗り越える心のリハビリを……。

「無事で戻ってきてね」
「ああ、もちろん、見てて、きっと勝って見せるから」
「順位は良いの、無事に完走してくれさえすれば」
「それは俺のプライドが許さないよ、復帰戦とはいえ、このクラスでなら勝って見せる、それくらいじゃないとグランプリには戻れないさ」
 マーシャルからの合図があり、沙耶は差しかけていた傘をたたんでピットに戻った。

 レースは中盤でトップに立った義彦が危なげなく逃げ切ってチェッカーフラッグを受けた。
「やったな、義彦」
「貫禄の勝利だったぜ」
 ピットクルーに祝福される義彦を、沙耶は少し離れて見守っていた。
(この人はレースだけじゃなくて自分にも勝ったんだわ……)
 そう思うと自然に涙があふれて来た。
 そして、その涙を指で優しくぬぐってくれたのは義彦だった。
「沙耶……リハビリの間、支えてくれてありがとう」
「あたしは何も……」
「いや、俺の中では何よりの励ましになったよ」
「……」
 沙耶は言葉にできない思いを胸に、義彦に抱きついた。
 これからずっと支えて行きたいと思う人の胸に。
 その時、ちらりと兄の姿が脳裏に浮かんだ。
 安心したような笑顔を見せて深く頷くと、くるりと向き直り沙耶が追い続けていた背中を見せ、天に昇って行くかのように消えて行った……。