小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ラン・リターン

INDEX|4ページ/4ページ|

前のページ
 


  ※

 ――ただ、僕はひとりだった。
 誰が他に戻るわけでもなく、静かな『世界の逆行』に僕は僕だけで傍観者の如く付き合うはめになった。

 だから、そこに君がいたときには驚いたというか、呆気にとられた。
 君が向こうから僕を見ていたのに気がついたときには、驚きと畏敬と、締め付けるような苦しみと、弾けるような歓びが体じゅうに溢れた。
 君はかつて僕が愛し、社会が崩壊するときに、息絶えた。
 息絶えさせられた。
 それはまったく強引かつ唐突な、でも無慈悲で暴烈なばかりの爆風に晒されて――。


 身体に満ちる思いとは裏腹に、麻痺するかのように僕がぽかんとしていると、君はにこやかな笑みを浮かべてくれた。
 手を伸ばしてくれたので僕はそれを掴んだ。
 この時の君は、ぼくが知る最後の頃の君の姿にとてもよく似ていた。


 僕らはそして、『家』を目指した。
 つまり、『僕らがかつて住んだ家』へと向かうことにした。
 なぜかと言われても、それは『問うまでもない』としか応えられない。
 だってそこは僕らが暮らした何気ない場所だけど、
 ――振り返れば、そこは概念的にきっと僕らにとって一番『楽園』に近いところだったから。



 何気なく目をやった君の髪が、美しくなっている。
 これは比喩でも何でも無く、埃や汗や、汚れが落ちているのだ。
 僕は握った君の手を眺める。
 その手はまた少し小さくなっている。


   

 ぼくは自分の顎をさすった。
 だらしなく伸びていたはずの無精ひげが消えている。





 ――(夕)陽に照らされた空は、徐々に、清々しく青みを増し――




 ぼくは家路をきみと急ぐ。
 歩みはやがて、小走りになる。
 『郷を望む想い』がきみとともに在るのなら、それはなんて素晴らしいものなのだろう。






 辿り着くところがどこであれ、今のこの世界にキミがいるとすれば、いるとするならば。






 小さなボクの足が小さなキミの足とたったか進むその先は、






 ――ボクの望むところでしか、きっときっと、あり得ないのだ。




 RUN ”Return”






作品名:ラン・リターン 作家名:匿川 名