ラン・リターン
※
――ただ、僕はひとりだった。
誰が他に戻るわけでもなく、静かな『世界の逆行』に僕は僕だけで傍観者の如く付き合うはめになった。
だから、そこに君がいたときには驚いたというか、呆気にとられた。
君が向こうから僕を見ていたのに気がついたときには、驚きと畏敬と、締め付けるような苦しみと、弾けるような歓びが体じゅうに溢れた。
君はかつて僕が愛し、社会が崩壊するときに、息絶えた。
息絶えさせられた。
それはまったく強引かつ唐突な、でも無慈悲で暴烈なばかりの爆風に晒されて――。
身体に満ちる思いとは裏腹に、麻痺するかのように僕がぽかんとしていると、君はにこやかな笑みを浮かべてくれた。
手を伸ばしてくれたので僕はそれを掴んだ。
この時の君は、ぼくが知る最後の頃の君の姿にとてもよく似ていた。
僕らはそして、『家』を目指した。
つまり、『僕らがかつて住んだ家』へと向かうことにした。
なぜかと言われても、それは『問うまでもない』としか応えられない。
だってそこは僕らが暮らした何気ない場所だけど、
――振り返れば、そこは概念的にきっと僕らにとって一番『楽園』に近いところだったから。
何気なく目をやった君の髪が、美しくなっている。
これは比喩でも何でも無く、埃や汗や、汚れが落ちているのだ。
僕は握った君の手を眺める。
その手はまた少し小さくなっている。
ぼくは自分の顎をさすった。
だらしなく伸びていたはずの無精ひげが消えている。
――(夕)陽に照らされた空は、徐々に、清々しく青みを増し――
ぼくは家路をきみと急ぐ。
歩みはやがて、小走りになる。
『郷を望む想い』がきみとともに在るのなら、それはなんて素晴らしいものなのだろう。
辿り着くところがどこであれ、今のこの世界にキミがいるとすれば、いるとするならば。
小さなボクの足が小さなキミの足とたったか進むその先は、
――ボクの望むところでしか、きっときっと、あり得ないのだ。
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