ラン・リターン
※
僕はどうやら『回帰』している。
『どこまで戻るのか』は分からないけど、
いつか見た映画であったように、
年老いて生まれたわけでもないけれど、
まるで泳者がプールの端で鮮やかなターンをぶちかますかのように、
あたりまえに産まれてあたりまえに老いた僕は、命の終着点とおぼしきところで、時の流れを遡り、どこかへと『戻り』始めた。
それは不思議な感覚で、時間を数直線に例えるならば、僕は自分では『前進』、つまり『加算』している感覚がある。
なのに太陽は西から登り、滑空する鳥は後ろへと戻り飛ぶ。
だけど僕は『前』へと歩き、顔を触ろうとするなら手は『上』に上がる。
その中で『時間』は時々、僕の目を盗むかのようにそろりそろりと世界を巻き戻す。
――こんなふうに。
ほら、と僕が窓ガラスを指さす。
そこにはもう割れも曇りも無く、誰かが念入りに磨いたかのようにびかりと輝きを反射している。
君はそれを見て目を丸くして、少しだけ嬉しそうに口元を緩めた。