認知症に遠い心の持ち方
転ぶ人 その1
数年前、毎朝早い時刻にウォーキングしていた人が居た。身体は元気そうで、畑を駐車場にするまでは花を植えていたので、私宅の前を通る度に菊の花をくれた。
亦、家を新築するとかで庭木をすべて廃棄するに当たって、その一部の花の株を私の家の庭に植えに来てくれたりもした。
年齢もほぼ変わらず誠実な人と思っていたのでこの先ずっとお付き合いができると思っていた。
ところがいつの間にか彼女の姿が見えなくなった時期がある。
同居していたシングルの息子はいるが電話を掛けても誰も出てこない。私は心配になりお宅を訪問してみた。人付き合いが苦手な息子が玄関先まで出て来て、母は介護施設に入りましたとぼそっと言った。
後日息子からきいていた介護施設へ手土産を持って訪ねた。コロナの渦中だったその頃は施設を訪ねても会わせてはもらえなかったので、土産だけを職員に預けて帰った。
作品名:認知症に遠い心の持ち方 作家名:笹峰霧子