飛び降りの心境
その話をどうしたのかということを、すぐには思い出せないのは、この話を聴いてすぐに思い出せなかったのと同じことではないだろうか?
それを思うと、自分の性格を思い出した。
「私は、一人で集中している時は、すぐに話が思いつき、文章だけならどんどん出てきて、あっという間に一つの話を掛ける特徴があった」
ということを思い出すと、
「ただ、質より量ということなので、実際にはうまく描けているわけはないのだが、意外と、自分で思っているよりも、いい出来なのではないか?」
と思うのだった。
だが、この話を考えている時、誰かからちょっかいを出されていたような気がした。
その時付き合っていた男性だったか、とにかくちょっかいを出されてはいたが、発想はどんどん思いつく。だから、自分では書けないと思いながらも、結構進んでいたりしたのだった。
だが、そのせいで、思い出そうとしても、急に思い出せないというのは、トラウマで、切符を買おうと、ひっくり返ってしまった時に陥ったトラウマに似ているような気がして仕方がなかった。
「そういえば、自殺をしてしまう」
というような小説を確かに書いた。この話を聴いた時には、
「どこかで聞いたような」
とは思ったが、最後まで思い出すことはできなかった。
自殺してしまう人がいて、そのパターンがいくつもあるというものだったが、よくよく考えてみると、自分が小説を書いていた時期というのは、この話を聴くずっと前のことだったはず。
基本的に人から聞いたネタを小説にすることのなかった、あさみだったので、
「似たような話を聴いて、小説を書いた」
ということはないはずだ。
だから、この話を聴いたのは、紛れもなくこの時が初めてだったのだ。
つまりは、小説を書いた時、完全に。自分のオリジナルだったというわけである。
それこそ、不気味ではないか?
このようなオカルト的な話を、結構、好んで描いていたのだが、書き始めたのは、ちょうど、この話に類する話を聴いてからだっただろう。
だから、この話を聴いて、どこかに、
「達成感」
を感じたというのは、ほぼ初めてに近い形で、オカルト小説を書くことができた。
と感じたからだったのではないだろうか。
それを思うと。
「小説のネタというのは、意外とすぐ近くに転がっていて、それが河原にある石ころのように、同じように見えていても、石ころから見れば、見つけられているという感覚で、目があったとして、目を合わせないようにしようという無意識に意識というものをするのではないだろうか?」
と感じるのだった。
ただ、その小説を不気味に感じたからであろうか。
「もう小説を諦めよう」
と思ったのかも知れない。
もちろん、
「自費出版社系の会社」
というものの影響があったのだろうということは、否めないだろう。
「この話を自分が書いた」
というのを忘れてしまっていたというのは、一つの理由として思い出せるのは、
「その時、誰かが自分のそばにいて、意識を集中できなかったことで、普段と違う精神状態ができてしまったことで、
「自分の作品ではない」
とでもいうような錯覚を自分の中にもたらし、意識を分散させたのではないかと思うのであった。
しかし、思い出してみると、何とも事実にここまで近い作品であったのかと思うと、恐ろしくもあり、微妙な気持ちになる。だから、小説から詩吟やポエムに走る気持ちになったのだろう。それを、自費出版社系のせいにしたりしたのも、無理もないだろう。
ただ、自費出版社系の会社が悪くないわけではない、あるべくしてなった社会問題。そこにあやかってしまった自分の精神状態だったのだろうが、逆にそれがよかったのかも知れないと思う。
そんなことを考えていると、仕事を任されるようになって、ある意味有頂天だったと思ったあさみだったが、
「あれ? 私何しているのだろう?」
と考えるようになった。
足元がおぼつかず、考えているのは、すべて過去のこと、ふと我に返ると、目の前に広がっているのは、ビルの屋上から見た、階下であった。
目の前に大きな植え込みが見える。
「私は何をしようとしているのだろう?」
と思うと、すぐ隣に数人の人たちが急に現れた。
無意識だったから気づかなかったわけではない。明らかに今までそこには誰もいなかったのだ。
「皆さんは一体?」
と聞いても、ニコニコするだけで答えてくれない。
一人があさみの手を引っ張り、一人が背中を押す。もう一人が……。
そんな状態に後ずさりしようとするができなかった。
「このままだと、転落する」
と思った瞬間、
「ああ、どうせなら、あの植え込みの上だったら、痛くないかも知れない」
と感じた。
身体の力が抜けた瞬間であった。
「権利と義務なんて、ない世界なんだろうな?」
「この人たちも今の私と同じ心境だったに違いない」
と感じると、自分があっちの世界にいってしまったことを感じたのだった……。
( 完 )
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