小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

Jailbirds

INDEX|11ページ/11ページ|

前のページ
 

 美夜子の頭に向いていたキンバーTLEの銃口が瞬時に飯島の方を向き、飯島がモスバーグを撃つ前に二発の45口径がドアミラーを粉々に砕いた。その破片を顔に受けた飯島は、バラバラに散った45口径の一部を左肩に受けて真後ろに倒れ、地面に後頭部を打ち付けた。美夜子は、一度目が合った銃口を記憶から振り落とすように歯を食いしばり、グロック26を仙谷に向けた。再び銃口を向ける隙がないことを悟った仙谷は、小さく舌打ちをするとキンバーTLEを地面に置いた。美夜子から間合いを空けるように少しずつ後ずさりながら、言った。
「悪気はない」
「何が? 何の話ですか」
 美夜子は、頭の中でほとんど出ている結論を否定するように、顔をゆがめた。グロック26を構えたまま、少しずつ間合いを詰めて続けた。
「仙谷さん。嘘ですよね?」
 そう言いながら、美夜子はランドクルーザーの陰から聞こえた声にも気を取られていた。あれは明らかに、飯島の声だった。仙谷の撃った弾が当たった可能性は、かなり高い。車庫と事務所を隔てる通路の段差で仙谷が立ち止まったとき、美夜子は車庫の外で鳴った着信音に向かって、声を張った。
「紗季! いるの?」
 紗季は車庫の反対側に回り込み、仙谷の頭を狙える位置まで一気に走りながら叫んだ。
「いる!」
 美夜子が振り向いたとき、仙谷は通路の裏に立てかけたベレッタ1201FPを手に取った。その銃口が美夜子に向く直前、紗季は走りながら目を細めると、仙谷に向けてシグP210の引き金を引いた。三発がコンクリート壁に吸い込まれ、四発目が左頬に命中した。五発目と六発目は腰と左足を掠めたが致命傷にはならず、仙谷は頬に受けた弾の勢いで壁に叩きつけられたが、血まみれになった顔をすぐに上げると、紗季がいる方向に一発を撃つのと同時に、美夜子の手からグロック26を蹴り飛ばした。美夜子は反射的に飛びのくと、紗季がいる方向へ走った。
「紗季! 当たった?」
 ギリギリのところで真横に伏せた紗季は、土で汚れた顔を歪めながら、首を横に振った。
「当たってない、姉ちゃん、逃げないと」
 美夜子は紗季の手を引くと、全力で駆け出した。逃げる場所がない。十五年前にあった出来事から、今自分たちの身に降りかかろうとしていることまで、全てが頭の中でごちゃ混ぜになっていた。美夜子は、紗季と一緒に排気ガスを細く上げるキャラバンまで戻ると、スライドドアを開けた。スウェディッシュKをスリングから切り離そうとしてフックを掴んだとき、紗季が言った。
「姉ちゃん、言わなくてほんとにごめん。私、自分で復讐したくて」
「私だって、同じようにしたよ。紗季には心配かけたくないし」
 美夜子はそう言うと、出井の死体に挟まれて上手く外れないスウェディッシュKのグリップを引っ張った。
「シグはあと何発あるの?」
「二発」
 紗季が言ったとき、美夜子は息を呑んだ。キャラバンの車体にかかる、大きな影。美夜子が振り返ると、よろけながらもキンバーTLEをまっすぐ構えた仙谷は、血まみれになった顔の奥で目を見開くと、同じように振り返った紗季に言った。
「銃を置け」
 紗季は、シグP210を地面に捨てると、キャラバンにもたれかかりながらその場に座り込んだ。美夜子は隣に座って紗季の手を握ると、言った。
「紗季。私たち、ここまでよくやったよ」
 仙谷は、美夜子の頭に銃口を向けた。
「そろそろいいか?」
 美夜子が仙谷の顔を見返したとき、銃声が鳴った。血まみれになっていた仙谷の顔に新しい穴が空き、糸が切れたようにその体が真横に倒れた。飯島は、自分が放った38口径が仙谷を殺したという事実が信じられないように、細く煙を上げる銃身を見下ろした。
 美夜子は、仙谷の死体を見下ろす飯島に言った。
「それ……、ダイヤモンドバックだよね」
「はい。親父の形見です」
 飯島はそう言うと、これ以上敵がいないことを確認するように、首を左右に振った。紗季は呆気にとられた表情のまま、言った。
「お父さんって、なんて名前?」
「飯島康之です。五年前に脳溢血で死にました」
 飯島はそう言うと、右手に握るダイヤモンドバックを見つめた。美夜子は立ち上がると、同じように立ち上がった紗季と目を合わせた。紗季は美夜子の顔から自分の眼鏡を取ると、俯いてメガネクリーナーで拭き上げ始めた。そこに涙がぽたぽたと落ちていくのを見た飯島は、取り繕うように言った。
「あの、うちの親父と知り合いなんですか?」
 紗季が黙ったまま頷き、美夜子は言った。
「ヤスおじさんね。命の恩人だよ。私たちからしたら、育ての親」
 紗季は眼鏡をかけると、震える息を整えながら呟いた。
「また、助けてもらっちゃった」
 キャラバンの開けっ放しになったドアから中を覗き込み、紗季は美夜子の方を振り返った。
「これ、姉ちゃんがひとりでやったの?」
「うん。遠藤、出井、真野の順番に撃った。大川には逃げられちゃったけどね」
 美夜子はそう言うと、車庫に目を向けた。
「グロックを回収してくるわ」
 美夜子が小走りで駆けていき、紗季はセンターコンソールの上に横倒しになったドロップの缶を手に取ると、がらがらと振った。血まみれの記憶に蓋をするようにキャラバンのドアを閉めると、飯島の左肩に触れた。
「弾、当たった?」
「はい。でも、破片だと思います」
 紗季は大きく安堵のため息をつくと、ようやく笑顔に切り替えて、ハッカ味のドロップを差し出した。飯島は受け取ると、同じ味のドロップを指でつまんだ紗季と同時に、口の中へ放り込んだ。美夜子が戻ってきて、飯島の体を後ろに押した。
「こらこら、距離が近ーい」
 紗季がわざと息を吐きだし、美夜子はくしゃみをした後、飯島に言った。
「明日の夜さ、三人でご飯に行かない? 今後の話をしたい」
「是非。仕事の話ですよね。予約します?」
 紗季は美夜子の方を見た。音無家に『予約』なんて概念は存在しない。なぜなら、そこまで生きていないといけないから。美夜子は同じことを考えていたようだったが、眉をひょいと上げると、言った。
「お願いしてよい?」
 飯島はうなずくと、アベニールの方へ歩き出した。紗季は、美夜子に言った。
「音無家の掟は、いいんだ?」
「私たちにもいつか、最後の日が来る」
 美夜子は飯島の後ろ姿を見ながら言うと、それでも運命がその都度捻じ曲げられることを待ちきれないように、紗季の方を向いて笑った。
「でもさ。多分、それは明日じゃないよ」
作品名:Jailbirds 作家名:オオサカタロウ