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双子

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「もし、揉めても兄弟、しかも、ツーカーのような仲なので、俺たちが不利になるような問題はないだろう」
 ということで、
「それよりも、スリルを楽しみながら、金儲けができるのだから、こんな面白いことはない」
 と思っていた。
 何しろ、今の世の中、不景気で、ずっと窓際のような立場であったが、何とか会社にしがみついてきたが、
「世界的なパンデミック」
 のせいで、簡単にぶら下がっていた場所からふるい落とされた。
 ただ、それは自分だけではなく、たくさんの仲間がいた。そのおかげで、何とか、生きてこれたが、少しでも、プライドや、自尊心を捨てられない人は悲惨だろう。
 一人ホームレスになり、気が付けば、
「一人のホームレスがのたれ死に」
 などということが、誰にも知られることなく、毎日のように、どんどん増えてくるのだ。
 政府は何もしてくれない。
 やたらと無駄な人流抑制政策を行うばかりで、国民には、
「我慢しろ」
 といっておいて、自分たちは、キャバクラに通っていたという、ふざけた政治家もいたくらいだ。
 そうなると、国民は政府のいうことなど誰も聞かない。次第に。マスクもしない輩が増えてきて、その後変わったソーリも、
「国民は、自分の命は自分で守れ、政府は何もしない」
 とばかりに、どんどん規制緩和を行い、
「国民なんか、どうなってもいい」
 と言わんばかりであるから、もう誰も信用してはいないだろう。
 だいぶ落ち着いてはきたが、いつまた起きるか分からない。本来なら、今次を考えて、必死で検証を行うべきなのに、どうせ、あの政府にそんな頭があるわけもなし、次に起これば、またバカの一つ憶えのように、ただ、同じことを繰り返し、国民を犠牲にするだけなのだ。
 そんな、倫理に対しても、モラルに対しても、政府のせいで、感覚がマヒした人間が、街には溢れている。そんな状態なので、兄貴の計画に載ってくるのだ。
 しかも、その計画を企画したのは、例の閉じ込められた男だった。
 彼は、計画実行のために、自分の母親と、忠直を狙った。
 実は、あの時、冷蔵庫の蓋を閉めたのは、兄だった。忠次の記憶が曖昧だったので、兄はその場にはいなかったと思っていたが、実は兄が一緒に行動をともにしなくなったのは、この事件のあとすぐからであった。兄は、自分が復讐されないように、犯人を忠次だということにして、逃れようと考えたのだ。
 忠直は、もちろん、良心の呵責もあったろうが、それよりも、双子ということで、
「この計画がバレたりしないだろうか?
 という不安をいだいていた。
 しかし、こうするよりも、自分がやってしまったことでの復讐から逃れることはできない。
 しかも、
「知っていて、計画に参加するからこそ、少しでも、被害を少なくすることができるのではないだろうか?」
 と考えるのだった。
 実際に、その思い通りにいけたのかどうかは分からない。
 しかし、知ってしまった以上、兄貴との確執は決定的なものになった。
「もう信用できない」
 という思いだ。
「なるほど、猜疑心と自尊心の強さからの嫉妬と、その場から逃げ出したいという思いから、パニックになると、思考能力が低下してしまい、すぐに安直な方法を選びがちだ」
 ということなのだろう。
「安直な方法」
 つまりは、
「犯罪行為」
 だといってもいいだろう。
「兄弟の中でも双子は仲がいい」
 とよく言われるが、
 確かに仲がいいのはよく目立つので、たくさんいるように思うだろう。
 しかし、実際にはどれくらいいるか分からないが、適当に、
「2割くらいだろうか?」
 と考えたとして、残りの8割は、仲が悪いといってもいい。
 つまり、双子は、お互いになんらかの意識がなければ成立できないということだ。
 これは、まるで、逆さ絵に似たところがあるのではないか。例えば風景画において、空と海を描いたとして、ちょうど、中間くらいに水平線があると見えるように描いたとしても、それを逆さにしてみると、水平線が、かなり上に見えているという、一種の錯覚なのである。
 それは、普段の相対する関係、その二つが、正反対になって見える時、
「大いなる錯覚をもたらす」
 というものである。
 つまりは、この
「相対的な関係」
 というのは、双子の自分たちと同じであろう。
 もし、この後の人生で、それぞれに誰かを必要になった時、果たして、お互いに、お互いを求めるようなことになるのであろうか?
 それは誰にも分からない……。

                 (  完  )
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作品名:双子 作家名:森本晃次