色々な掌編集
落としたものは
「あなたが落としたテレビは金のテレビですか? 銀のテレビですか」
私がそう言うと、男は落ち着かない仕草で、周りを見渡した。ビックリして腰を抜かしたのか、座り込みたそうな腰つきである。男からは、私が見えない。私はさらに続ける。
「あなたが落としたテレビは……」
何がどうなっているのか分からず、パニック状態の男は、それでも一生懸命にこの夢のような出来事を理解しようとしていた。
確か童話に出てきたセリフのような記憶があるが、あれは斧だった。そして今は21世紀である。これはテレビ局の『どっきりカメラ』で、私をからかっているのだろうという考えに至って、男はカメラを探し始めた。周りにはそれらしき物は見当たらず、人の気配も無かった。
「あなたの落としたテレビは」
私は語気を強めて言った。
男は、またパニック状態になり、
「わ、わたしが落としたのは、そ、その、普通のテレビです。」と、土手の下から半分顔を出しているテレビを震える手をあげて指差した。
「正直ものよ。お前にはそのテレビと、さらに掃除機もつけてあげよう」
私はマイクに向かって威厳に満ちた声でそう言った。そして手元のボタンを押した。
グイーンと土手の下から男が捨てたテレビと、私がここに勤務する前に捨てられていた掃除機が台ごとせりあがった。
男は催眠術にかかったように、うつろな目でテレビと掃除機を車に乗せて立ち去った。
しかるべきお金を払って処分するはずの粗大ごみである。分別の無い大人が増えたのと、ごまかせるものはごまかせという大会社の風潮が一般にまで影響した結果、不法投棄が後をたたず、このシステムを可動させたのだった。こんな子供だましも、幼児性に抜けない大人が増えたせいもあって順調だ。
数ヵ所の不法投棄の名所がモニターに映し出されている部屋に、同僚の声が響いている。
「欲張りものめ! 金の電子レンジなどあるか!」