色々な掌編集
小さい頃のことで良く覚えていることがあるんだ。その当時村だか町だかわからないが小学校に入学する前のことさ。運動会の時、次に入学する子ども達に短い距離を走らせる競技があった。ゴールにあるお菓子が入った袋を走っていって好きなものを拾うんだ。
俺は母親にスタートラインまで連れていって貰って、その時に何か言われたんだけれど、俺の目と頭はスタートラインでピストルの形で「バン!」と紙火薬をならすあれとおじさんに見とれてしまってた。
みんながもう走り出しているのに、俺は「バン!」と鳴ったあとの白い煙を見ていたんだ。みんなが一斉にお菓子取りに向かう中で、俺は一歩も動かずスタート係の動作を見ていた。たまりかねた係のお姉ちゃんに背中を押されて俺は走り出したんだが、一つだけ残ったお菓子袋を、余ったものだと思って観客のなかの小さい子が取りにきてつかんでいる。俺はしょうがなく、それを奪い取ろうとしたがとれなくて、その子の親が無理矢理取り上げて渡してくれたが、袋はぐちゃぐちゃで中でつぶれたものもあった。俺はみんなからあきれた顔で見られたんだ。その日で俺はどじっ子と近所の有名人になった。
そんな風にして人生という奴ができあがって行くのかも知れないが、俺はいつだって自由さ。ただ、ちっとばかり他人と違っているだけなんだ。
十八の時、俺はブルースを拾った。電話の向こうで女が返事をしぶっている。明日は用事がある。来週もダメだ。それじゃ、いつ会える? わからない。この公衆電話のある露地の向こうで、犬が俺に向かって吠えたてている。女が話題を逸らすように、犬が啼いてるねという。泣いている。俺の心が泣いている。俺はそれでも受話器をそっと置いた。
ブルースが俺にとりついた。EVERYDAY I HAVE THE BLUESか。