色々な掌編集
思い出づくり
「まだ少し早かったかなぁ」未央は残念そうな声をだした。
紫陽花で有名なこのお寺に来てみたら、まだ薄黄緑の色で小さな花もある。それでも鮮やかな青紫の花もあり、赤紫、白と近くに寄らなければ充分に綺麗な景色だった。
それに自分には秘密兵器がある。そう思うと雅充は頬がゆるんでくる。
「でも、ほら、お寺を入れて大きく見るとすごいいい感じだよ」
そう言って、未央を見ながら雅充は言葉を続けた。
「未央さんと一緒だしね」
あらっ、というような顔をして未央が雅充を見る。それから、少し恥ずかしそうに
「そんな風に言われたの、はじめて」と小さな声で言った。
未央のそんな様子を見るのも雅充には嬉しいことだった。はっきり言って人並み、特に美人でもなくスタイルとセンスがいいという訳でもなかったが、安心感というか安らぎを感じる女性だった。さして大きな欠点もない。そして自分には秘密兵器がある。
境内を出てからぶらぶらと歩き、ケーキと喫茶の店が目に入った。
「あそこでひと休みしようか」と雅充が言うと「うん、結構歩いたしね」と未央が返事をする。
店内に入ってみると、5・6人並んでいた。かなり有名店らしい。忙しく動き回る店員に待ち時間を聞くと2.30分ぐらいだという。雅充は未央をちらっと見た。その顔はこの店が気に入った様子で、30分ぐらい平気よと言いそうだった。待つのが嫌いな雅充は、
「他を見てみよう」と外に出た。
ほどなく見つけた店に入って、可もなく不可もないコーヒーとケーキを食べ、盛り上がらない会話をしたあと、土産物屋に入った。少し翳りがちだった未央の表情が少し明るくなったのに一安心して、未央が熱心に見ているフクロウの置物を「買ってあげるよ」と言った。
「えっ、嬉しい!」
控え目な笑顔を見ながら、それでも【まあいいか、あれがあるから】と思うと、もう早く家に帰りたくなった。