色々な掌編集
脱出
それは今年一番の暑さと言われた日だった。
オレは朦朧とした頭で、誘われるようにその中へ入ってしまった。
そこはひんやりとしてしていて、またいい匂いが充満していた。だんだんと身体が冷えてきて、頭もクリアになった時、突然辺りが真っ暗になり、扉が閉まる音がした。
「いけない、閉じこめられた」
オレは急いで入ってきた所へ向かおうとしたが、真っ暗なため扉の位置が分からない。
しかも分かっていても開けることは困難だろうと思えた。その扉がしまる音と風圧はかなり大きなものと推測されたからだ。
オレは手探りで周りを確認することにした。
食料倉庫であることは確実であろう。手に掴んだものを食べてみてそう思った。
「食料の心配は当分無いだろう」
少し安心したせいか、身体が冷えてしまっているのに気づいた。手探りのままオレは少しでも温かい所へと移動することにした。
だんだんと身体の冷えはひどくなって行く。
「ああ、さっきの所の方がいくらか冷えが少なかったかなあ」
そう思っても、真っ暗な中で場所が特定できず、ただウロウロするばかりだった。
――入り口の所が一番冷えが少ないのではなかろうか――と震えながら考えた。もう動物的勘で行動するしかない。オレは身体をあちらこちらにぶつけながら入り口と思える場所へ向かった。
だんだん痛覚も無くなっているのだろうか。
かなり物にぶつかっているのに、その感覚も無くなっている。
お腹が空いてきて、手に触ったものをもぎ取り食べてみた。冷えすぎではあるが美味とも思える。
扉の方へ、少しでも暖かい方へと勘を頼りにヨロヨロと移動した。
――少しはましな所へたどりついたかも知れない――そう思ったら気が遠くなりそうな、このまま眠ってしまいたい感じがしてきた。
こんな時には眠ってはいけないと聞いたような気がする。オレはほっぺをパシッパシッと叩いて眠気を飛ばした。
パシッ じりっ
パシッ じりっ
少しずつ少しずつ移動した。
きしむような音と共に辺りが明るくなって、オレは暖かい空気に触れた。
――正解だった。やはり、ここが入り口の近くだった――しかし身体が思うように動かない。この大きな扉がまた閉まる前にここを出なくてはならない。オレは転がるようにして出口へ向かった。
「キャアー、虫が! お父さーん! 冷蔵庫に虫が入っていた!
あああ、あっ あー出ていった」