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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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続・おしゃべりさんのひとり言/やっぱりひとり言が止めらない

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木村さんはよく体育館に来られて、僕らと一緒に作業を手伝ってくださいました。
遠い場所ですが、そこにボランティアを集めては、何日にも分けて物資の仕分けを行いました。
でもそれらの中に目立つのは、ゴミ同然の中古品です。
明らかに使えないものまで入っていますが、これなら使えそうと思う物でも、例えば、使いかけの鉛筆なんかでも、エリトリアに送るのは「エリトリア人を見下しているようなのでダメ」って、木村さんが仰いました。
僕らのイメージでは(アフリカの貧しい国だから、どんなものでも欲しがるだろう)と思ってしまいがちですが、「彼らは戦争で困難に直面しているだけで、文明人としてのプライドはある」と言われるのです。
「なるべく新品でないと失礼に当たる」と木村さんは真剣に訴えておられました。
でもその境界線が僕らにはよく分かりません。
「毛布は中古でもいいですか?」
 「うん、でも端がほつれてるのはダメ」
「Tシャツは? 汚れてなければいいですか?」
 「ちゃんと裏表確認して、プリントの文字の意味も考えてね」
「コートなんか使います?」
 「アフリカは夜寒いのよ」
「スリッパが大量に有りますけど、靴の代わりに・・・」
 「靴代わりになんかならないわ」
「こんなオモチャはどうですか?」
 「ゲームじゃなく、ボールとかラケットとか体を使う遊びがいいわ」
結果、全体の半分くらいは、ゴミとなりました。
使える物資はキレイに整理しましたが、それでもスゴイ量です。再利用した段ボール箱に「えーい!」と詰め直していきました。

次の課題はこの物資をどうやって、エリトリアまで運ぶかです。
木村さんが考えておられた具体的なプランは、船便で送る手はずだったのですが、その物量が予想以上になってしまいました。
この頃、僕は自分でデザインしたプラスチック製品の中国での製造経験があって、大阪の貿易会社との取引をしていましたので、そこにも相談しました。
通常は国際郵便のような配達便として、運送会社に依頼すればいいだけですが、この時は荷物が多すぎました。しかもエリトリアへ直行する船は無いので、何か所かの港を経由して貨物の揚げ降ろしがあると、こんなアフリカの僻地の国に、僕らの荷物が無事に着く保証はないとのこと。
紛失させない為には、「最低でも20フィート(6メートル)のコンテナを貸し切って、一つにまとめて送らないといけない」って言われたんです。それが最小単位だとか。
そうなると、一般の配送荷物として請負ってくれるサービス会社が無く、商業貨物となり、その金額もさることながら、それを目的地まで運んでくれる貨物船を探すことも困難でした。

僕らの活動は暫く停滞を余儀なくされました。
借りていた体育館も、いつまでもと言う訳には行きません。一旦は体育館の別の部屋に山積みにさせていただいて、先にゴミの廃棄作業に当たります。
僕らはこの工場でゴミの処分をお願いしようと考えていましたが、産業廃棄物との違いから工場では廃棄してはもらえませんでした。
でも近くの自治体のごみ処理施設に、無料で持ち込むことが出来たそうなので助かりました。

そんな中、木村さんは八方手を尽くして、真剣にエリトリアへの輸送手段を探されていました。ご主人様のいろんなコネも使われたそうです。
ボスもコネを使って、色々な輸送手段が候補に挙がっていたんだろうと思います。でもどれも、莫大な輸送費がかかってしまうようでした。
そんな中、「横浜にピースボートがやって来る」って話を聞き付けたんです。

『ピースボート』ってご存じですか?
ウィキペディアによると、『国際交流を目的として設立された日本の非政府組織(NGO)、もしくは、その団体が企画していた船舶旅行の名称である』と記載されています。
現在は、たった99万円の世界一周クルーズのポスターで有名ですが、本来は平和主義、民主主義の観点から人権問題にも国際的に取り組む組織です。クルーズ旅行を企画して資金を調達しながら、同時に世界中を救援活動で回る、十分信用に値する団体でした。
木村さんはそこに連絡を取られました。
すると「横浜に停泊中に港まで持って来てくれれば、無償でエリトリアまで運んでくれる」と言うんです。
木村さんの交渉力なのか、ご主人様の影響力なのか、はたまたその真剣さが相手の心を動かしたのか。
今回は、たまたまアフリカへの航海だったので、途中でエリトリアに寄ってくれるそうです。ついでにですよ。わざわざですよ。

この頃の僕らは、よく解っていませんでしたから、「ラッキー」「ツイてる」「やればできる」とか言って喜んでいましたけど、今になってそのことを思い起こすと、それはすごい確率での偶然で、費用だってとんでもない金額がかかったはずです。
その組織が、そうまでしてこんな安い物資を現地に送る事の意味と、僕らの活動がいかに困難であるかをよく理解しておられるからこその応援で、それを無償で請け負ってくれる寛大さには、その活動における信念の強さを感じます。
それは正に奇跡的なタイミングでした。

その後、数週間かけて僕らの荷物がエリトリアに到着し、木村さんが現地に向かわれ、そこで活動されている協力隊に、無事引き渡されました。
僕は単にお手伝いをさせていただいただけで、何も苦労なんかなかったですが、木村さんは最後まで真剣に活動されていました。また多くの方がボランティアで協力してくださいました。皆さん、本当に大変な仕事をされたと思います。

その後、残念ながら僕らには、同様の活動は継続できませんでした。
単純に「募金活動の方が簡単」って結論になりそうですが、寄付金を利用した納得いかない事実があることもよく理解しました。
寄付する側にも注意が必要なんです。有名な〇〇募金でさえ、その収支に不審点が・・・とか言っちゃダメかな? もしその募金の大部分が活動家の報酬になっていたりすると知っていたら、あなたはいくらその箱に入れますか?(その活動家にも生活がありますし誤解があるといけませんが、見分けが付きにくいという意味です。善意で街角に立つボランティアでさえ、利用されてしまっていることもあるんです)
いずれにせよ、人道支援って(協力するのは素晴らしいことだ!)って思いますけど、その自己満足のレベルは想像以上に低いって現実を知りました。つまり、素人が気軽に手を出すには、あまりにハードルが高いってことを学んだんです。
ピースボートだけではなく、世界中にこういった支援活動をしている組織がいくつもありますが、どれもものすごく偉大です。