続・おしゃべりさんのひとり言/やっぱりひとり言が止めらない
その137 ハマグリ名人
狭い砂州に多くの人がしゃがみ込み、一様に貝を掘る光景。
そんな中、明らかに行動パターンが違う一人の高齢男性が気になった。
足元をキョロキョロして、失くし物を探されてるように感じたから心配になったのだ。
すると徐にしゃがみこんだかと思うと、右手を砂の中に突っ込むのが見えた。
そして少しグリグリして引き抜くと、その手に大きなハマグリが握られているじゃないか。
(え? どうやってハマグリを見付けたんだ?)
僕はこのおじいさんから目が離せなくなってしまった。
今年もそろそろ、あのシーズンがやってくる。
僕が毎年楽しみにしているレジャーの季節だ。
『潮干狩り』って経験ありますか?
僕は年に3回行ってしまうこともある。もう15年以上続けてるし。
大潮の日の干潮時間を調べておいて、妻と二人、車で向かうんだ。
行き先は秘密だけど、三重県の牛肉で有名な街の、とある海岸。
帰りにステーキ食べて、温泉に寄って、それがいつものパターンだな。
季節は春から晩夏まで。秋冬になると潮が変わって、昼間にちょうどいい加減に潮が引かなくなってしまうから。
4月頃はまだ寒いけど、体が海に浸かる訳じゃないんで、防寒対策に少し厚着をしてれば問題ありません。でも6月ともなれば、僕はついでに泳ぎます。
とにかく海が好きなもんで、夏には海水浴にも行きたいんだけど、こんなおじさんが一人で泳いでたら変でしょ。でも潮干狩りのついでなら、恥ずかしくないもんね。(いや、その方が恥ずかしいという意見は多い)
その浜は、所謂ビーチっていうんじゃなくて、大潮の日には、狭い範囲に1キロ以上沖まで砂州ができる河口だ。
そこに観光で来る一見さんはあまり見かけません。いかにも地元民という格好の方ばかりで、子供もほとんどいません。つまり、潮干狩りのベテランさんばかりという訳だよね。
多くの方が干潮ピークの2時間くらい前から、近くの漁港に駐車して待機されています。
以前は無料だったのに、最近は漁協の方が駐車場で入漁費として、一人500円ずつ徴収される日もあります。
でもこの漁港にいらっしゃる漁師さんにお話を伺うと、よそ者の僕にも貝の獲れるポイントを教えてくれたり、港のトイレや水道もシャワー代わりに使わせてくれたりします。
僕の友人たちにもこの場所を紹介して、一緒に来たりもするんだけど、たった一回で彼らは音を上げてしまうんです。
理由はいくつかあるけど、貝の獲れるポイントが途方もなく遠いのもその一つだ。
潮が引いた砂の上を、と言っても所どころまだ水溜りが残るような砂地に足を取られながら、荷物を持って沖まで歩いて行かないといけないから。
クーラーボックスのような大荷物は車に残すけど、それでもリュックだけでという訳には行かないもん。
砂を掘るスコップや熊手、その他の道具に、軽食類、飲み物、椅子、日よけの傘は必須だし。それを子供用の雪ゾリに載せて引いての行軍です。
やっとポイントに付くと、なるべく砂が盛り上がった小高い場所を見付けて、そこを前線基地とする。
そして潮が満ちてくるまでのタイムリミットは長くて3時間くらいなんで、即戦闘開始です。
ゆっくりしていると砂州の途中が水没して、まあ泳ぐ必要はないけど、荷物も水に浸からないと帰れなくなるからね。
獲れる二枚貝には様々な種類があるんだよ。
先ず定番のアサリ。これは一か所に集まっていることが多いから、ポイントさえ見付ければある程度簡単に獲れるけど、砂州の先端じゃなくて割りと港に近い場所にも多いんで、今は対象外とする。
砂をスコップで掘って、1センチほどの穴を見付けてそこに食塩を入れると、にゅ~ッと黒く細長い貝が顔を出す。マテガイです。それを引っこ抜く。バターソテーがすごく美味しい貝ですけど、どこにでもいるんで、これも後回し。
岸壁や防波堤には牡蠣がいっぱい貼り付いています。でもそれにはあまり興味がない。
これらはこの日の成果が物足りなかった場合にだけ、帰り道で獲ることにしています。
いつも合計5キロくらい獲って帰り、砂抜きして冷凍しておきます。
でも僕は量を取るのが目的じゃないんです。本命はズバリ、ハマグリです。
潮干狩りで「ハマグリなんか獲ったことない」って多くの方が言われるけど、毎回30個(1~2kg)くらいだけ獲って、持って帰ります。年によってはアホみたいに獲れることもあるけど、あまり獲れない年もある。
その話を聞いて、友達も「行きたい!」って言うから、連れて来てあげてるのに、皆「次はもういい」って言うんですよ。
なんでかって? それは実際そんな楽には、ハマグリ獲りはできないからだ。
じゃ、僕はどうしてるかって? それには15年のキャリア、つまり修行の成果があるのです。
この現場でやみくもに砂を掘っても、ハマグリはほとんど見付けられません。
偶然見付けられても、3時間で10個が限界でしょう。途中で飽きると5個がいいところ。
他に酢味噌和えが美味しいアオヤギ(バカガイ)や、クラムチャウダーにすると抜群なカガミ貝もよく獲れるし、赤貝(に似たサルボウ貝もある)が出ればラッキーだ。
オキシジミ、シオフキという二枚貝もよく目にするけど、砂をいっぱい噛んでたり美味しくなかったりなんで、もとに返します。
たまに幸運にもウシエビ(ブラックタイガー)や、ワタリガニ、モクズガニも砂の中から出て来てビックリするよ。