続・おしゃべりさんのひとり言/やっぱりひとり言が止めらない
その155 夏の歌声
♪ボーボーポッポー、ボーボーポッポー、ボーボーポッポー
最後の「ポー」は、音程を少し上げ気味で口ずさんでみてください。
(♪ドードードッミー)くらいの音階で、ワンフレーズ3秒ほどの繰り返しです。リコーダーで吹くとバッチリかな。
何のことか全く解らない人と、「あ~、あれね」って気付く人もいると思います。
僕はこの音を聞くと、なぜか(夏だな~)と思います。
子供のころ、夏休みにゴロゴロしてると、家の周辺である生物がこの声を発していたのを、印象強く覚えているからです。
はじめは(何の音だろう)と思っていましたが、生き物の鳴き声だっていうのは大体想像がつく。それは一瞬の鳴き声じゃなく、1分とか継続して鳴いています。
(鳴き続ける生物って、虫?)って想像も、(それにしては音量が結構でかい)てことは(セミ?)いや、あんな鳴き方のセミ、聞いたことがない。
(フクロウかな?)でもフクロウは夜行性で、真っ暗闇で「ホ~、ホ~」と鳴くイメージでしょ。
あの声には規則性があって、聞き慣れないフレーズというか、特徴的なリズムの鳴き声でした。
僕はその正体を確かめようと、音の聞こえる方向を見に窓際へ行っても、近くにそれらしい生き物は見当たりません。屋根の上で鳴いてたのかも。
普段からうちの周りには、スズメとハトくらいしかいませんが、スズメにしては声が太く、全然イメージと違います。ハトは「ポッポ」と鳴くので似てるけど、あんなに歌うように長時間継続して鳴くなんて思えないし。
河原やお寺の境内にはハトがワンサカいますよね。ある時その鳴き声を聞いて、あの夏の鳴き声と一緒か吟味してみましたが、「ポポポポ、ポロッポロ」と素早く鳴きながら、エサを啄んでいるので、全然違います。
どのハトも「♪ボーボーポッポー」などと歌うようには鳴いていません。
また別の機会に、その鳴き声が聞こえてきました。
僕は母さんに「あの声何?」って聞きました。すると、
「ハトや」って簡単に答えるんです。
「ええ? ハトはそんな鳴き方しないで」
「ハトくらいしか、この辺にはおらんやろ」
このように意見が一致しません。僕はハトは最初に候補から外していました。
僕の予想では(カエルの鳴き声に違いない。どこかに隠れて鳴いているんだ)
または(オウムか何か特別な鳥が周辺にいるんだ。近所で飼ってるんかな?)というくらいで、結局、僕は腑に落ちないまま、暫くを過ごしました。
それからも気になってはいたものの、答えは分からないまま、翌年の夏休みにまた同じ疑問の繰り返しでした。
後年、真夏の道路を歩いていると「♪ボーボーポッポー」が頭上から聞こえてきました。
僕は見上げると、電柱の上の方でハトが鳴いていました。
(え? やっぱりハトだったのか)
間違いなく喉を膨らませて、そのリズムを発声していました。
意外にもありふれた答えだったことで、僕は(なんだぁ⤵)とガッカリしました。
でもその時はまだ気付いていなかったんですが、このハト、実はよく群れで見かけるハトとは違う種類だったんです。
河原やお寺にいるのは、『カワラバト』という種類の外来種で、通称『堂バト(ドバト)』とも呼ばれ、伝書バトとして輸入されたものが野生化してるんですが、それはこのようには鳴きません。
その鳴き声の正体は、『キジバト』という在来種です。カワラバトより少し小型で、よく模様を見ないと見分けが付かない人も多いと思います。
本来は山林に近い地域に多いようですが、僕が住んでた地域には、開発前の荒れ地の林や神社の森があったので、少なからず生息していたようです。
あの鳴き声は求愛行動だったり、縄張りを主張したりしているのだそうです。
通常、一年中鳴いているものらしいのですが、どうやら僕の家の近くに巣があったようで、子供の頃、夏休みに家にいる時だけ、その声を聞いていたという訳です。
僕にはハトにまつわる思い出がもう一つあって、それはどこにでもいるドバトなんですけど、中学の時に教室にそれが迷い込んで来たんですね。皆、キャーキャーしながら、逃げたり捕まえようとしたり。
そしてそれが僕の方に向かって飛んで来たんです。咄嗟に右手を上に伸ばすと、僕の手の平に、スポッと入ってしまいました。一躍ヒーローです。
そして10年ほど前にも同じようなことが。
バイクに乗って右折待ちしてる時に、正面からハトが僕に向かって飛んで来ました。また咄嗟に右手を伸ばしたら、今回もスポッと入って来たんです。
その瞬間を目撃された、正面で向かい合う右折待ちの車の運転手が、「うわッ!」と叫んだのが聞こえました。
すぐに手を放して逃がしましたけど、この時は恥ずかしかったです。
この話を知り合いにする時、ついでに必ず「♪ボーボーポッポー」の話をします。
「夏によく聞こえるよね」って。
すると、ほとんどの人は「そんな鳴き声、聞いたことない」って言います。でもいくらかの人は、「そのハト知ってる」って共感してくれるんですが、どうやら皆が夏のイメージを持ってる訳じゃなさそうです。
でも僕の妻は、このハトの鳴き声を『夏の歌声』と呼んでいました。
きっと僕らは、子供の頃から感性が似ていたんだと思います。