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蝕む

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暑い、


暑すぎる



普段から代謝の悪いこの身体が、流れる程の汗をかいている。


まだ初夏だというのにこの暑さは






なんとも先が思いやられる。


築60年は経っているだろうこの木造アパートは、周辺が鬱蒼と木々に囲まれていて立地条件が非常に悪い。俺の部屋のエアコンもこの季節にきて永眠された。それに加えてこの暑さだ。


窓を開けていてもむなしい程の無風。さっきから小一時間、チクチクする古い畳の上で汗を垂れ流しながらじっと、じっと仰向けになっている。


夏が苦手な俺はいつもこの季節になると無気力になる。八畳間の真ん中、居心地の悪さと格闘しながら。





大学の長い夏休み、ありがた迷惑な長期休暇に突入してもう一週間になるだろうか。学校から少し離れた田舎町に部屋を借りている俺には近所に特に知り合いもいない。気の合わない両親がいる実家に帰省する予定も皆無だ。


よって、この一週間食っては寝、食っては寝の繰り返し。台所は小さな地獄絵図にも見える。





そろそろ、買い出しにでも行くか。
夏休み、真昼間、うだうだしているだけの自分が居た堪れなくなってきて、だれている身体を起こそうとした。


その時、
ふ、と視界の隅に蠢く何かを見た。


蟲だろうか。



そういえばつい先月も、畳を這う小さな蟲を何匹か見かけた。こんなボロアパート、蟲が巣食うのもおかしくはない。



天井の角を波打つ蟲たちは、天井の薄い板を小さく突き破って湧いているようだった。

少しの間魅入っていた、その光景がいい意味で滑稽に見えて。






外に出るとようやく涼しい風にあたることができた。
階段にまで伸びる雑草をかわしながら下りる。顔も知らない隣人は、留守なのか、郵便入れから新聞やら広告やらが諸々にとび出ている。


あの蟲たちは放っておくことにした。
どうせ短い大学生活を過ごすだけの仮の住まいである。順調に進級さえすれば四年間でアパートとはおさらばなのだ。あの部屋を、俺が護ってやる必要はない。






一か月程が経った。

相変わらず天井を蠢く蟲たちは、数こそ異常に増えたものの、それ以上の害は全くない。薄い板の侵食は進み、梁さえ見え始めたが、気味の悪いほど気にならなかった。


作品名:蝕む 作家名:零 識