小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ビワイチ(続・おしゃべりさんのひとり言 109)

INDEX|4ページ/4ページ|

前のページ
 

この日も炎天下で日陰も少ない中、薄い帽子1枚被って、脱水症状に気を付けながら歩きます。
そんな時、横の道路に知らない車が停車しました。
そして中から降りてきた男性が、スポーツドリンクを持って近寄って来られます。
「ラジオ聞いて応援してます。これどうぞ」って、差し入れです。
正直嬉しかったですね。僕にとっては、無茶な挑戦でしたし、炎天下に長時間の孤独な道のりでもありました。
100キロマラソンの時もそうでしたので、あの時の苦しみしか思い浮かばなかったけど、今回は見ず知らずの方がたくさん応援に来てくださって、とても嬉しかったんです。
ところが、その日一日で10本以上差し入れを受け取りました。
(そんなに飲めるか~!)って、飲まないと持って歩けないので無理して飲んだり、半分流し捨てたりってことも。「せっかくのお気持ちをごめんなさい」
飲み干してもその空き容器は、自分のゴミ袋に入れて担いで行くしかないのです。
この日の晩は20人ほどが、当時は湖西地区に在った『奥琵琶湖マキノプリンスホテル』に宿泊しました。
この日もまた、気持ちが途切れるとまったくと言っていいほど、動けなくなりました。
お風呂に入るのも重労働で、とにかく皆、大浴場を四つん這いではい回るような状態です。
一応宴もやりました。昨晩のこともあったので、急遽、宴だけ参加できる知り合いを、大津市や京都から集めました。だってこの日、雑誌の取材が来ていましたので、場が暗くちゃ話にならん。

3日目スタートしたのはたった10名ほど、熱中症の疑いなどで昨日棄権された方も多く、朝からの飛び入り参加も、昨晩の宴に呼ばれて来た内の若干名だけでした。段々としょぼい結果になって行く気がします。
でもこの日のフィナーレは、小中学生が30人、ゴール目指して琵琶湖大橋から近江大橋までの約20キロに参加してくれます。
僕らは重い足を引きずりながら「止まったら死ぬのじゃ~」を合言葉に、ただひたすら歩き続けました。
安全のために目立つ色で着用していたゼッケンは、途中で脱ぎました。これを着ていると暑くて煩わしいというのもあるのですが、目立つと大量に差し入れを持って来られるからです。
途中の休憩所で整骨院の先生に、超低温治療をしていただきました。(扉絵下部の写真は、情報誌に掲載された当時のもの)
凍ったパッドで太ももとふくらはぎを包んだんですが、その冷たさが刺すように痛い。でもそれを悶えて耐え続けていると、やがて麻痺して痛みや冷たさを感じなくなりました。
そして歩いてみると、痛くなかったんですよ。
プロ野球のピッチャーが、投げた後に氷で冷やすのってこういう事なんでしょうかね?
それでまた元気に歩くことが出来るようになりました。
でも筋肉痛とは違う、膝の痛みを感じるようになりましたのでテーピングを使用しました。
かなり無理が来ているようです。それでもボスは諦めません。他にも根性で棄権せずに歩き続ける方もいらっしゃいます。
「こういう仲間が欲しいんだ」とボスが言いますが、戦争にでも行かない限り、こんな猛者たちが活躍する場はなかなか無さそうです。その時僕は逃げると思いますけどね。

この日はまたヘリが応援に来ました。琵琶湖の低空を何度も急旋回して、小中学生にもエールを送ってくれました。
残念ながら、僕らは子供たちのスタート時間に、そこに辿り着くことは出来ませんでしたけど。
そして、この残り20キロでボスが戦線離脱されました。棄権したのではなく、シンポジウムの開会時間に間に合わないので、ゴール地点の『大津プリンスホテル』に車で移動されたんです。
僕ら残りのメンバーもここで終了することにしましたが、たった1名だけは根性で残りの距離も歩かれました。
その方はシンポジウムが終了してからゴールされましたが、大勢でその到着を待ちました。
これで僕らの灼熱地獄の3日間は、大きなトラブルもなく、すべて終了しました。
それは一人で100キロ歩いた時よりも、清々しい気分だったと思います。

こんな成り行きのイベントでも、社会的には結構注目を集めたようです。
総勢100人近くが参加され、拾った空き缶とペットボトルは、3日間で1万本以上に上りました。
他に落ちていたゴミの種類や量もスタッフが分析してくれてシンポジウムで公表し、参加した子供たちには、琵琶湖の環境問題を考えるいい機会になってくれたと思います。

この日以降、仲間内ではマラソンブームが巻き起こり、後に皆でホノルルマラソンに挑戦したり、また毎年一回、思い出深き琵琶湖に集結して(さすがにもう一周はしないけど)子供たちと一緒に湖岸のゴミ拾いイベント『びわこクリーンアップキャンペーン』を15年の長きにわたり開催しました。
そのうちに環境ゴミ問題を考える財団法人や、アルピニストの野口健さんなどの協力も得られ、放置ゴミ問題を子供たちに知ってもらう活動を続けてきました。
僕たちのこの活動は10年ほど前に終了してしまいましたが、今は(別に引き継いでもらった訳ではないですが)どこかの団体が、同じような活動を琵琶湖で開催してくれています。

冒頭の名刺って、この『ビワイチ』に対して貰えたんだと思いますが、ユネスコなんてそんな大看板背負わなくても、草の根的な活動は、こんな猛者たちによって日本中で行われてるはずですよ。


     つづく