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生と死の狭間

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 正直助かりたいという気持ちはある。助かりさえすれば、そこから先は自分の力でいくらでも何とかなる。
「死んだことを思えば、何だってできる」
 というような考え方があるのではないか?
 生き埋めになって、72時間を、どのような気持ちで過ごすのだろう? 10分で、数年くらい過ごしたような気になる。
 そう、
「先は決まっているのだ。どうせ誰も助けにこない。72時間で俺の命は尽きる。本当は一思いに殺してほしいのだが、そうもいかないようだ。ここまでくれば、生き残りたいとは思わない。生き残ることが返って地獄なのかも知れない」
 と感じた。
 助かれば、まるで英雄みたいにちやほやされるだろう。しかし、それも一瞬、助かったことの喜びの次に感じることは、
「これから、何をすればいいんだ?」
 という思いである。
 しかし、死の覚悟をずっとしてきたのだから、いまさら生きられると言っても、完全に、生きる気力はなくなっている。
「生きる気力のない人間に、生きながらえる資格があるというのだろうか?」
 と、考えさせられるのだった。
「生と死、どちらが自分のためになるのか?」
 ということよりも、
「一度生きる気力を亡くしてしまったら、もうその人は終わりなんだ」
 と言っても過言ではない。
 虚しさが残るだけで、そんな時に、自殺菌が自分の身体や頭に侵入してくることになるのだろう。
 あるいは、それ自体が、
「自殺菌の正体」
 なのかも知れない。
「生きるということと、死ぬということ」
 これは、長所と短所のように、背中合わせであり、普段はお互いにその正体が分からないものなのだ。
 だから、
「死というものから、生きるということを考えた時、まったく理屈が分からないに違いない」
 つまりは、死神というものが本当に存在しているのだとすれば、テレビやマンガで出てくるようなコミカルなものではなく、本当に恐ろしいものなのかも知れない。
 秀衡は、そんなことを考えていると、自分の名前をいまさらながらに考えるようになった。
「そうだ、平将門を討ち取った武将ではないか?」
 と思うと、急に将門伝説が思い出された。
 菅原道真などと並んで、討たれたことで霊となって、天変地異をもたらしたりしたではないか。
 これは考えると、二人とも、謂われなき、
「賊軍」
 の汚名を着せられたも同然である。
 道真は、藤原氏や他の貴族の反感を買った。
「出る杭は打たれ、天皇も助けることもせずに大宰府に流された」
 そして、将門は、
「平安京の貴族には坂東武者のことが分からず、いつも搾取を受けていたから、関東で親皇と名乗った」
 どちらも、朝敵ではないのにである。それを討ち取ったことで、悪霊となり、恨みをこの世に残したのだろう。
 それを討った、秀郷は、きっと、何かのバチを受けたことだろう。そうなると、同じ名前を頂く自分も、誰か朝敵になっていない相手に意識することもなく、その人に罪をかぶせて、まさか、自害などという最悪の末路を抱かせたのかも知れない。
 だから、
「死にたい」
 と思うようになったり、ドッペルゲンガーを見せて、本来なら、助かるはずの命であっても、すぐに生きる気力というものをなくさせたのかも知れない。
「俺って、今一体いくつなんだろうな?」
 と思うと、自分の身体の中で、自殺菌が蠢いているのを感じた。
「やっぱり。このまま死んでしまう方が楽なんだろうな?」
 と、夢か幻か、目の前にいるドッペルゲンガーは、きっと、今の自分と同じ表情をしているに違いない……。

                 (  完  )
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作品名:生と死の狭間 作家名:森本晃次