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端数報告7

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アテにならない人の話をアテにしてはいけません


 
てわけで次に2020年9〜10月の話となるが、9月にテレビは8月後半の患者の一時的増加について、
 
「あれはなんだったのでしょう。なぜあれ以上広がらず、半月で止んでしまったのでしょうか」
 
と言うことになっていた。〈専門家〉がそれに対して、
 
「それはですね、ゴニョゴニョゴニョゴニョ……」
 
と答えるが専門用語の羅列なので何を言ってるかわからない、ということになっていた。だがスタジオで聞く者は「ううむなるほど」と頷いて「よくわかりました」と返すのでおれにはわからないことがよくわかったらしく見える。しかしそこで「さて」と言って話を変えてしまうので何がどうわかったのかはおれにわからないことになる。
 
 
 
   「クーラー病だよ。なんで気づかねえんだ」
 
 
 
とおれは思うのだけどおれが思ってもしょうがないので世は変わらずに過ぎていく。9月中は日本で何も起こらないのでニュースが言うのは外国で人が死んでいるといった相も変らぬ話で、それを理由に、
 
「第2波があれで終わったからと言って油断はならないのですね」
「そうなのです。第2波があれで終わったからと言って油断してはいけません」
 
と言うばかりとなっていた。そうして10月になった頃だ。テレビをつけると池上彰の番組が映り、おれはそんなもの見ないので普段はチャンネルを変えるのだけど、この時は何を言ってるかちょっと見る気を気まぐれに起こした。
 
するとこれが8月の一時増加の話であり、池上彰がスタジオで、
 
「あれが〈波〉だったかどうかは、専門家の間でも意見が分かれています」
 
だとか言ったのだった。すると土田晃之か誰かが、
 
「えっ、あれが〈波〉だったかどうかは、専門家の間でも意見が分かれているんですか」
 
と質問を入れる。すると池上彰がそれに、
 
「そうなんですよ土田さん。《これは間違いなく〈波〉だ》と言う専門家と、《〈波〉と呼ぶには規模が小さいのではないか》という専門家がいて、互いの間で結論が出ていないということなのです」
 
「うーん。それって、《これは間違いなく〈波〉だ》と言う専門家と、《〈波〉と呼ぶには規模が小さいのではないか》という専門家がいて、互いの間で結論が出ていないということですか」
 
「そうなんですねえ」
 
「そうかあ。よくわかりました」
 
と言って土田が頷き、他の者らも皆うんうんと頷くのだった。この話を全員がよくわかったものらしい。
 
おれはチャンネルを変えながら、
 
 
 
   「一体なんなんだこれはよう」
 
 
 
と思った。池上彰の番組がこういうものであることは知ってたんだから見るおれが悪い。もちろんそういう話でもあるが、しかしなんなんだこれはよう。
 
これで一体こいつらは何がわかったつもりでいるんだ? いや、もちろん話はわかるよ。わかる。話はよくわかるけど、これがよくわかるというのはわかったことになってねえじゃん。
 
これは「よくわかりました」と言ってしまってはいけない話だ。〈吉野家〉と〈松屋〉と〈すき屋〉のどの牛丼がいちばんうまいかといった話をしてるんじゃあねえんだから。話題がそれなら意見が分かれて結論が出んでも誰も一向に困らんだろうが、この問題はそれではいけない。
 
 
 
   「それってあんだけ学者という学者がみんな
    わかったようなことを言いながら、
    ちゃんとわかっていた者はいないってことなんですか」
 
 
 
そう言わなきゃいけない話だ。「専門家がそれじゃ困るんじゃないですか。今がそれでは、今後も学者の言うことはアテにできないとなりませんか。〈常温核融合〉とかのガセに飛びついて、実験がうまくいかなかったら実験が間違っていることにする。それとおんなじような者らに社会が振り回されているってことはないんでしょうね。《あれが第2波かそうでないかということで意見が分かれている》なんてのは、その疑いが強いもの、という気にしかなれないんですが」
 
そんな疑念を呈すべきものだ。池上彰がしている話は、〈専門家〉とされる者らの言葉がアテにならないことを意味する。それまでずっと[今日の感染者数]を聞くたび「それだ! それが〈波〉が来て人類がほぼ絶滅となる数字です。三日後にも人がバタバタと死に出すでしょう」と言ってきて全然そうならない。数がいくつかに関係なくそう言ってるようにしか見えず、その第2波が来たとなったら口を揃えて「これがワタシが予言していた世界の終わりです!」と叫び、でも全然そうはならずにたいしたことなく終わってしまうと誰もまともな説明ができない。
 
その挙句に一ヵ月経ったところで【意見が分かれています】だと? あんなもんクーラー病に決まっているのにわかる人間がいないのか。
 
もう頭に来た。そう考えておれはこの時、《コロナなんか全部嘘だ》というブログを本気で始めることになる。前にちょっと書いたものはちょっと書いただけだったが、ここまで来たらもう許せない。
 
そうは言ってもおれに何が変えられると思っているわけでもないが、すべてを見抜いていた者もいるというのはバカどもに後でわかるようにしておかなければいけない。
 
それが正しい者の責務だ。そう考えてブログを始めた。帝銀について書いてきたものが世に広く知られれば、これも知られることになろう。その後は皆が驚愕しながらおれが以前に出したものを読むことになるのだ。
 
という心算(こころづもり)もあったしまだこの時は、やはりすぐにもハレー彗星ということが判明して終わるだろう、とも考えていたりした。
 
だからその前に書いて出しておかねば、と。何しろ3月頃までは、「これは史上最大どころか、〈禍〉と呼ぶほどの禍でさえない」と言った学者が1988年の常温核融合騒動の際に疑念を呈した者らのように多くいたはず。その者らこそ本当の専門家なのであり、密かに連絡を取り合ってガセを暴いて終わらせるべく動いていたりするんじゃないか。
 
というような望みも持ってた。そんな者達が本当にいたのか、いたとしても社会がこうなってしまってはどんな行動も取りようがなかったのか、それはわからんがとにかくそうして、帝銀に続くコロナのブログをおれは始めたわけである。
 
作品名:端数報告7 作家名:島田信之