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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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ビーチグラス(続・おしゃべりさんのひとり言 105)

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少し前、ある方の地元を訪問することがあって、自宅に招いてもらったんですが、そこはちょっとした海沿いの港町でした。
河口に泳ぐ魚を眺めていたら、「釣りしませんか」って話になって、浜に行って投げ釣りをしたんです。
僕はあまり釣りはしないので、投げ竿で仕掛けを沖に放り込んだ後、待つ時間がどうにもつまらない。
おしゃべりしながら、缶酎ハイを飲んでたんだけど、男同士の会話もそれほど盛り上がらないんです。
僕はふと足元を見ると、青いビーチグラスが見えたので手に取りました。
すごく深い藍色です。雫のようなティアドロップの形。ふんわりとしていいフォルムでした。
何の欠片だったんでしょうか? この色は白ワインのボトルで見かけることがあります。
よく見ると、そこかしこに落ちているじゃないですか。
水色(ソーダか一升瓶?)や薄緑(コーラのボトル?)、定番の茶色(栄養ドリンクかビール瓶?)
そこは砂浜ではなくて、細かい小石がいっぱいの浜だったので、濡れて黒っぽい小石に交じって、明るい色のビーチグラスは輝いて見えたんで、すぐに見つけられます。
ものの数分で片手いっぱいになりました。

「うちの嫁もよく集めてるんですよ」
その方がそう話されて、興味が出ました。
こんなに簡単に集まるなら(きっと形や色、品質にこだわってコレクションされているはずだ)と思ったからです。
聞けばその昔、この海岸の近くに『ガレ場』と言われるゴミ捨て場があったそうで、燃えないゴミがそこに埋め立てられていたらしいのですが、台風などで海岸が侵食されてゴミが流出、その中に含まれていた瓶や陶器が割れて、今は海岸に多く流れ着くんだそうです。

僕は釣りそっちのけで、辺りを徘徊してビーチグラスを集め出しました。
すると先ず、色の豊富さに驚きです。茶色は多くてあまりきれいじゃないから要らないけど、ピンクやオレンジ、紫とか真っ赤なのもあるんです。
「赤は珍しいですよ」とその方も仰います。
そして何より、その形がいいんです。
僕が今まで見たことのあるビーチグラスは、確かに(割れたガラスだな)って分かる形で研磨されている物でした。
でもこの海岸にあったのは、周りの小石同様に、全部丸い形をしているんです。
「そうか、砂じゃないから、石と一緒に削られて丸くなりやすいんだ。そりゃそうだ。丸いビーチグラスなんか珍しいと思ってたのに、この海岸じゃこれがスタンダードなんだ」
そんなことを言って感動すること暫し。
僕が一所懸命に拾い集める姿を見て、その方は笑ってましたけど、
「ここじゃ、そういう人多いですよ」だって。
「へぇ?」僕は(うらやまし~ぃ)とか思っちゃいました。

その後、晩のおかずになるくらいキスが釣れたので、釣りはそこそこに切り上げて、その方の家に戻ると、奥様がビーチグラスのコレクションを見せてくださいました。
6畳部屋の出窓の棚に、ガラスポットに入れられた大量のビーチグラス。
同じように波に洗われたビー玉もたくさんにあって、それをビーチ玉とかシー玉って呼ぶんだって。(B玉→C玉だなんて面白い。緑のシー玉は「マリモちゃん」って呼んでらっしゃいました)
基本は、おはじきみたいなまん丸の他、そら豆みたいなのや雫型を中心に集めてるそうです。
やはりどれも淡い色で整った形、なんとも味のあるイイやつばかりです。
色ごとに分けてそのグラデーションも素敵だし、その大量の粒が窓際で港の陽光に照らされて、何と言うか、キャンディポップな雰囲気←なんとなく解る? シュワ~っとソーダ飴みたいな。もう虜になった。

その壁のコルクボードには、いくつものアクセサリーがディスプレイされていたんですが、それはビーチグラスを銀や金の針金で縛ってペンダントトップやイヤリングに加工されていたり、革ひもで括ってベルト状にしたり。十分商品として成り立つクオリティ。
いやいや、そりゃ誰だってビーチグラスの整った形のがあったら、(アクセサリーに出来そう)って発想はあるでしょ。
でも普通、その形がいい一個を見付けるのが大変だし、一個作ったらもう終了って気分なのに、これだけ大量に採取出来たのなら、何でも作りたくなるの、う~ん、解ります。
この奥様はもう、まるでプロのビーチグラシスト。僕の拾ってきたビーチグラスを見せると、
「いいの集めましたね。あぁ、これきれいです。コバルトブルー」
最初に見つけた藍色のやつでした。そして、一つひとつをじっくり観察されています。
彼女くらいの上級者ともなれば、本当に興味レベルが愛情へと変化するの、うん、解ります。
「あ、これもしかして・・・」
奥様はそう言うと、机の引き出しからペンライトを出されました。
そして僕の拾ってきた薄緑っぽい一つをそれで照らすと、ナント!
それは蛍の如くの黄緑に光ったんです。
「え? 何これ?」
「これは昔のウランガラスですよ」
取り出されたペンライトはブラックライトで、手に持つガラスには微少に放射性物質が含まれているらしく、紫外線を当てると蛍光色に発光するのだそうです。
「私もこれ探してるんです」
そう言って木製の古いレターケースのような小引出しの一つを開けると、その中に似たような淡い黄色か緑のビーチグラスが、まとめて入れられていました。
どれもブラックライトを当てると、まるでスポットライトを当てたかのように、その箇所だけ発光する面白いガラスです。
中には丸くない破片も多かったから、(形に拘ってられないほどレアなガラスなんだろう)と思いました。
「じゃ、僕のこれプレゼントします」
そしておもむろに、僕のウランちゃんをその引出しに入れた。
「ぇえ?いいの? これ形すごくきれいだから貴重ですよ」
「僕が持ってても宝の持ち腐れですから、うまく活用してください」
僕は壁のアクセサリーを見ながらそう言った。
「これら、売ったりしてるんですか?」
「いえ、売るなんて。お友達にプレゼントするくらいです」
僕は利益はそれほど見込めないにしても、販売は可能だと思う。
それより皆で海岸で拾い集めて、それでアクセサリーを作るワークショップ的な活動で参加者募集するなら、十分利益は出せそうに思う。
でも誰でも2回目からは一人で出来るだろうし、リピーターを作るのは難しいかな。

僕はその晩、ホテルの洗面所で拾い集めたビーチグラスを洗って乾かし、色ごとに分けたりグラデーション順に並べたりして楽しんだ。
そして翌日、自宅に持ち帰ったら、
「これどうすんの?」と妻が聞く。
「う~ん、とりあえず置いといて」
「またどうでもいいものが増える」
「眺めてるだけで癒されない?」
「どうせ飽きたら捨てるんでしょ。不燃ごみかな? ガラス瓶と一緒に捨てられるかな?」
もう捨てる時のこと考えてる。

興味が無いとこんなにテンションが違うのだ。
僕も24時間前までは、同じような感覚だったんだけど。


     つづく