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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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ネル君がくれた紅茶

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僕はその晩、ベッドに寝転がり、紅茶の瓶を照明に透かして見ていた。見れば見るほど紅茶の葉がそこには詰まっている。

“これをくれたネル君は、ほんとに火星人だったのかな”

僕は確かに、一瞬だけ、ネル君の両腕がしゅるしゅると伸びていたのを見た。でもそれは、見間違いか何かだと誰かに言われたら、否定出来ない。

“でも、ネル君は僕の友達だった。それだけは確かだ”

それから、彼にあげた人形を思い出す。

“大事にしてくれるんだろうな”

夜の中、僕はぽつっとこう呟いてみた。

「一緒に連れてってよって言ったら…宇宙旅行、出来たかな」

なんだか、自分のそんな言葉まで馬鹿馬鹿しく聴こえるほど、僕は常識に縛られたままだった。

「火星は、遠いな」

ネル君は火星に帰る訳じゃなかったけど、便宜上そう言った。彼がどこに行くのかは、僕は聞いていないから。

宇宙に飛び出して行くのが簡単だと言えなくて、思えもしないから、友達の話が信じられなかった自分が、ちょっと悔しかった。

“でも多分、彼は宇宙人だったんだ”

僕の中には、前とは違う、「多分宇宙人は居る」が、事実としてあった。そんな気がした。


僕は、ベッドのヘッドボードに紅茶を置いて、照明のスイッチを落とし、目を閉じる。すると、色んな景色が思い浮かんだ。


星屑の中を、宇宙服を着て旅をしているネル君。遠くに、彼の仲間と思しき人達も居た。それは僕の想像だった。だって、その中には僕の姿もあったから。僕は、とろとろと脳みそが液体になってているような眠気に、揺られていた。

僕達は、星と星の合間を飛んで、星の重力に巻き込まれ掛けて笑ったり、太陽に驚いて道を引き返したりした。足を掻けば、そこは宇宙なのに、不思議とスイスイ僕達は進んだ。

真っ暗だと思っていた宇宙には、様々な光があった。星はみんなピカピカと光っていて、青く熱していたり、赤く燃えていたりする。オレンジに瞬いている星、緑色に光る星…

そして、星を包むガスかと思って近づいてみたら、衛星の大群だった星達に囲まれ、僕は喜びの叫び声を上げた。無茶苦茶に叫んでやって、ネル君がそれを面白がる。

僕は宇宙を旅する夢を見て、いつの間にか眠ってしまっていた。




翌朝僕は、一杯の紅茶を淹れた。意を決して口に含むと、たっぷりの甘みと、華やかな酸味があっという間に広がって、とても美味しいお茶だった。

「美味しい…」

僕は、それが“美味しい紅茶だな”と思えた事に、安心していた。でも、その安心が“宇宙は未知じゃない”と思った安心かと思って、ちょっと戸惑った。

でも、彼がくれたお茶が僕の楽しみになるのが、とても嬉しかった。

この世界のどこかに、宇宙人が居る。そう思えるのが、嬉しかった。




おわり
作品名:ネル君がくれた紅茶 作家名:桐生甘太郎