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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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学習塾は?

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厳寒の作業現場で凍えながら今日も作業が終わった。
「さあ、帰るか・・」
と、自転車を扱いで家に帰る。
「帰ったよ・・」
「あら、お帰りなさい。あなた、知ってた?」
「何をいきなり・・」
「隣の柳さん、また昇進したんだって。近所では、その話で持ちきりよ。」
「そう・・それは、目出度い。で、その近所の話ってのは?」
「だから、柳さんの昇進の早さ。どう考えたっておかしいって・・」
「それは、柳さんに能力があるからだろう。」
「そうなのよ。」
「じゃあ、それで良いだろう。」
「ちっとも良くないわよ。その能力って口先三寸のおべんちゃらが上手いってだけで、他には何にも出来ないんだから・・、あ~ぁ、あなたも、もう少しあのおべんちゃらを習えば良いのに。」
「諦めろ、俺は、そういうタイプじゃない。」
と言いながら、俺は、のっそりとテーブルの横に座る。
「とっくに諦めてるけど、言いたくもなるわよ。将軍様を褒めるだけで昇進するなんて・・」
「おい! 声が大きいぞ。もう少し小さな声で・・ 壁に耳あり、隣にスパイありだ。」
「キョロキョロ・・」
「キョロキョロと言いながらでなきゃ、キョロキョロ出来ないのか。それより飯だ。帰って早々に愚痴を聞かされるから、唯一の楽しみを忘れるところだったぞ。」
「・・はい、どうぞ。今日もご苦労様。」
「・・何だ、これ?」
「夕食よ。」
「夕食って・・、これは、朝飯の残りじゃないか。」
「そうだけど、今何時?」
「午後七時五分。」
「じゃあ、立派な夕食じゃないの。」
「・・まあ・・・そうだな・・・・」
「ねえ、食べながらで良いから聞いてくれる?」
「愚痴は、もうたくさんだ。」
「愚痴じゃないわよ。今度は、建設的な話。」
「じゃあ、聞くよ。」
「ワンブロック先にね、学習塾が出来たのよ。うちの子もその塾に通わそうと思うんだけど・・」
「その必要はないだろう。うちの子は、二人とも成績は良い。」
「あなた、最後まで聞いてよ。その塾ってのはね、ベンチャラー塾っていう特別科目の塾なのよ。」
「それをいうなら、ベンチャーだろ?」
「いいえ、ベンチャラー塾なの。それはね、兎に角どんな人でも褒め上げて良い気分にさせる話し方を教える塾なのよ。」
「どんな人でもって・・さすがにそれは出来ないだろう。」
「それが出来るようになる為の塾なのよ。」
「どうも如何わしいな・・」
「だけど、特にうちの下の子なんか、あなたに似て思ったことをそのまんま言うから、わたしは、何時もハラハラしてるのよ。例え子供と雖も『将軍様のお腹はブックブク、早い話がデブなのよ。』とか言ってるのを、スパイに聞かれでもしたらもう大変。『年端も行かない子供がいうのは、親が言っているのを聞いたに違いない。ショーグンさまぁ、あいつ等、あなたの悪口を言ってますよぉ~~』と、通報されたなら重労働組に左遷されるのよ。その点、前の亭主との間に生まれた上の子は、わたしに似てとても可愛いから、そのまま育ってくれたら何処かの立派な人に見染められて良い暮らしが出来るのは間違いないけど、あなたとの間に生まれた下の子は、何の因果かあなたそっくりに生まれて、整形も出来ないこの国では、不細工なまま大きくなるしかないし、おまけに憎まれ口の天才ときてるんだから、もうお先真っ暗よ。下の子だけでも塾に通わせましょうよ。」
「下の子が物事をはっきり言うのは、お前譲りかも知れないと、今気付いた 様な気がする・・」
「何をブツブツ言ってるの! 明日、体験入塾に行くからね。」
「えっ? もう決めたの?」
「そう。定員がいっぱいになって断られると大変だから。あっ、これからは、もっと残業して稼ぐのよ! だって、下の子の性格と容姿があなたに似ている所為で塾通いさせなきゃならないんだから。まったくよりによって女の子なのにどうしてあなたそっくりなのよ・・」
「子供が親に似て何が悪い。」
「兎に角、悪いの!」
「塾に通えば、美人になるのか?」
「そんなの無理でしょ! 少しくらい笑顔の作り方を習ったって、あの子の場合は、かえって睨み付けた様な顔になるんだもの。だから、せめてベンチャラだけでも上手くなって、周りを褒め称える子だと思わせなきゃ。」
「人は、顔じゃない。」
「分かってるわよ。でも、物事には、すべて限度ってものがあるの。」
「どういう意味だ。そこまで言うことはないだろう。下の子だって良いところは沢山ある。細かい事など気にしないで、毎日明るく生きてるじゃないか。それに、下の子の顔を悪く言うってことは、俺の顔も貶しているということだぞ。」
「当然でしょ。」
「そんな不細工な顔の男と何故結婚した。」
「今思えば、一時の気の迷いとしか考えられないわ・・」
「そこまで言うか! よし、分かった。俺は、下の子を連れてこの家を出る。」
「出て、どうするのよ。」
「南の国の、そのまた南の国へ行く。あの国は、少々顔が悪くても生きて行けそうだから。」
「海をどうやって渡るのよ。」
「うみ? 何だ、それ?」
「海を知らないの?」
「仕事には、関係ない事だから・・」
「海ってのはね、水がいっぱい溜まってる処なのよ。」
「な~んだ、そんな処など心配ない。泳ぎは、達者だから。若い頃、村の池を何度も往復して、みんなを驚かせた俺だ。」
「少し足りないとは思ってたけど、そこまで馬鹿とは思わなかったわ。海ってのはね、村の池よりもずっと広くて、向こう岸が見えないの。それに波も大きくて、とても泳いで渡るなんて無理。海を渡るには、船を使うのよ、それも大きな船。」
「どれくらいの大きさだ?」
「村の渡し船よりも随分大きいと聞いたわ。」
「そうか・・ でも、その大きな船があれば渡れるんだな。よし、船を造るぞ。それで下の子と一緒に南の国の更に南に在る国まで行く。」
「船を造るって・・あなた、うちには、ツルハシとスコップしかないのよ。鋸とか金槌とか、もっと色々と道具が要るのよ。」
「そうかぁ・・、俺が仕事で使う道具しか買えなかったものなぁ・・ そうだ! 村長に借りれば良い。」
「そうだね、道具さえあれば何とかなるかも・・あなたは、意外に器用だから、ひと月もあれば完成するわよ。わたしも手伝う。」
「そうか、それは、助かる。俺は、腕には自信があるけど、何しろ考えることは、からっきし駄目だ。その点、お前は、記憶力が良いから船の完成図を頭に入れるなど御茶の子さいさいだ。二人して、立派な船を造ろう。」
「うん、頑張ろうね。」
「ん・・? あのな、ちょいと聞くけど・・、その船が完成したら、俺は、下の子と家を出るんだよな? その俺に協力するってことは、お前は、喜んで俺と下の子の家出を応援するってことか?」
「あっ、ついうっかりして・・ 船を造る話に興奮して忘れるところだったわ。」
「どうも俺達二人は、似たところがある。我鍋に、当時豚だ。そういえば、お前、知り合った当時はブタみたいに太ってたなぁ。」
「何を馬鹿なことを言ってるのよ。我鍋に当時豚じゃなくて、破れ鍋に綴じ蓋というのよ。それに、丸々と太っていた私が、あなたと結婚したばかりに今は瘦せ細って・・」
作品名:学習塾は? 作家名:荏田みつぎ