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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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青と黄色とサラバンドじいさん

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 私が向かっていた方向から、誰かの叫び声が聞こえた。
(え?今の声は何?)
 私は突然のことにあっけに取られていると、瞬く間に一カ所に人だかりができた。私も取りあえずそこに行ってみると、衝撃の光景を見た。
 何と、先ほどストリートピアノで「サラバンド」を弾いていたあの老人が、地面に両手を突いていたのだ。さらに悪いことには、彼の背中が数カ所焼けただれており、シャツの背中に穴が開いていた。私は思わず細く甲高い叫びを上げた。
(なぜ…なぜ…)
 青い服の老人は、キャスケット帽を被った小太りのおじさんに話しかけられており、何度かうなずいていた。私はその二人を遠巻きに見ながら、
(あのおじいさんが大変な状態だというのに、私は何もできない…。あのおじいさんが、このまま動けない体になって、二度とピアノを弾けなくなったら…)
 などと考えているうちに涙をこらえきれなくなり、避難するように近くの建物の中に入った。
(なぜ…なぜ…素晴らしい演奏を披露してくれた人が、あんな残酷な目に遭ってしまったの…?)

 この悲劇は、その日のうちに全国ニュースで報道された。被害者のあの老人が一命を取りとめたことを知って、私はひとまず安心した。そしてSNSを見ると、「トレンド」欄には「サラバンドじいさん」と言うのんびりワードのほか、「アシッドアタック」と言う物騒なワードが載っており、「じいさん相手に、ひでえなこれ」とか、「これ、後ろから何発もやられたのに近いからなぁ。防ぎようがないよ…。怖い」などという書き込みがちらほら見られた。さらにバズっていたのは、事件の起きる前、ストリートピアノで「サラバンド」を演奏する被害者を撮った動画だった。私は胸が締め付けられるような感じがして、すぐに画面をスクロールした。
 ベッドの中に居た間、ずっと涙が止まらなかった。私は当事者じゃないはずなのに。