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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Shiv

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 私は男の顔に一発を撃ち込んだ。銃声がこだまし、その反響音が消えない内に給水塔と逆側の機械室まで移動して、私はサーマルカメラを覗き込んだ。三人がばらばらと動き、その影は二階に下りることなく、三階の階段室へと動いていた。ひとりが私と同じ側へ行き、二人は自分たちに近い方の階段から上がろうとしている。二人が階段から頭を出す瞬間を狙って、私は機械室の後ろから銃口を出した。サーマルカメラの像が目の前まで迫って頭が出たとき、二人目の頭を撃った。三人目が驚いて階段から転げ落ち、私は立ち上がって階段まで全力で走ると、踊り場で体勢を立て直そうとしている三人目の胴体に四発を撃ち込んだ。同時に真横から弾が飛んできて頭のすぐ横を掠め、私は頭を下げながら機械室の後ろまで移動した。私と同じ側から上がってきたひとりが、屋上にいる。先手を打てるのはここまでだ。私は一階から撃ち上げられないようにできるだけ身を低くしながら、給水塔と機械室の間に足を踏み出した。四人目の男は、私が階段を使って降りられないよう、そこを見張っている。ということは、五人目がさらに有利な場所に辿り着くまでの時間稼ぎをしているのだろう。サーマルカメラで四人目の位置を再度確認すると、私は走った。四人目は銃口をほとんど下げていた。自分に向かって走ってくるとは思っていなかったのかもしれない。その胸に二発を撃ち込んで走るのをやめたとき、遊歩道からオレンジ色の発射炎が上がり、私のわき腹を抉った。その爆発音のような銃声は、おそらくオートマチックの散弾銃のものだ。咄嗟に伏せると、私は遊歩道に向かって撃ち返した。サーマルカメラ越しに相手の左腕が折れ曲がるのが見えて、男は私が入ってきたのと同じ道を辿って建物の三階へ入った。私は死体が折り重なる階段室へ飛び込んで、男が入ったのとは逆側から三階へ降りた。柱が何本も並ぶホールのような場所に辿り着いたとき、見当違いの方向から銃声が鳴り、二発目が左膝に当たるのと同時に、私は男の胴体に二発を撃った。男は片手で散弾銃を持ったままやけくそのような乱射を続けてきて、砕けた柱の破片が顏に当たって右目が見えなくなった。
 私はもう引き金を引かなかった。銃創を中心に、全身が焼けるように熱を帯びている。男がよろめきながら出てきて仰向けに倒れるのと同時に、その傍まで這って近づき、言った。
「カワラ」
 カワラは血まみれの頭を持ち上げると、私の顔を見て苦笑いを浮かべた。
「アヤメ」
 懐かしい呼び名。その名前を知っているのは、もうカワラだけだ。私は体を起こすと、自分の脇腹から背骨の真横を通って抜けた銃創を見下ろした。カワラがそれを気にかけるように手を伸ばしたとき、残った力を振り絞って笑顔を作りながら、首を横に振った。私の顔を見たときにどんな反応をするか、正直それだけが怖かった。右目はほとんど視界がきかなくなっているし、恐らく顔の半分が血まみれだろうから。
「これ、なんて弾?」
 私が残った息をできるだけ吐き出さないようにしながら言うと、カワラは同じように呼吸を抑えながら言った。
「フレシェットだよ。そっちは?」
「知らない。用意された弾」
 カワラは自分の傷口を眺めながら、血を吐いて笑った。
「ケチな組織だ」
「そうだね」
 私は隣に寝転んで、冷たいコンクリートに頭をくっつけた。カワラは骨組みだけになった天井を見上げて、言った。
「屋上なら、星が見えた」
「好きだね、そういうの」
 私が言うと、カワラは笑った。おそらく笑ったのだと思うし、声が届いたと信じたい。でも、私も目を開けていられなくなってきていて、それが最後の息だったのかは分からなくなった。
 私は命を惜しんで、散々逃げ回ってここに辿り着いた。だから本音を言うと、星空にすら見下ろされたくない。
 願いが叶って、全ての悩みが吹き飛んだような死に顔なんて。
作品名:Shiv 作家名:オオサカタロウ