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ヤブ田玄白
ヤブ田玄白
novelistID. 32390
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『まぼろし』をみた

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 私の気持はだんだん固まってきた。
たしかに、あれはジャンの水死体だったのだろう。
しかし、マリーはそれを絶対に認めたくなかった。
それほど、夫を愛していたのだ。
そう考えると、映画全体の流れが無理なく理解できるように思えた。

 私は気をとり直して言った。
「あのダンナ、死んでもそんなに愛されてたのか。羨ましいなあ。それにS君よ。奥さんはそういう気持がよくわかると言ってるよ。よかったナア。お前もいい奥さんもらって・・・」

 すると○子さんは答えた。
「いえ、映画と実際は違うわよ。それに私もSもフランス人じゃないですから」
Sはどう思ったかわからない。
無言のままコーヒーをすすっていただけだった。

 私は『まぼろし』を観たとき、五十過ぎた熟年夫婦の話は身につまされて、見てるだけでとても疲れた感じがした。
そして昨日、その感想を三人で討議したことで、いっそう疲労を覚えたのであった。
作品名:『まぼろし』をみた 作家名:ヤブ田玄白