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最大の懸案事項 ~掌編集 今月のイラスト~

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僕は『見えちゃう』系の人間なんだ、霊感が強いとでも言うのかな。
 小さい頃から『見えて』たんだ。
 大人にそれを言うと『子供には大人には見えないものも見えるのかねぇ』なんて言われてた、まあ、あまり体が丈夫とは言えなくて家の中で一人遊びしたり本を読んでたりすることが多かったから『想像力が豊かなんだろう』位に思われてたんだと思うな。
 別に独りぼっちが好きとかそういうわけじゃないんだよ、おばあちゃんちに居た女の子とは仲良かったし……今思えばあの子は座敷童だったのかもね、特にお金持ちだったわけじゃないけど、おばあちゃんは元気に長生きしてるし、家族みんなが健康そのものだしね。

 この能力(?)のおかげで、僕は大学に入学して一人暮らしをし始めた頃から住まいに関しては結構得をしてきたんだ。
 要するに『事故物件』ばかりに住んできたってこと。
 見えない人には気味悪いポルトガイスター現象も僕にとってはそこに居ついている霊がしでかしてることだとわかるし、霊が見えることにも慣れてるから別に平気、だからいつも格安物件にありつけたんだ、憑いてるのがヤバそうな霊だったら入居しなけりゃいいだけのことだしね、都会は家賃が高いからかなり得してる。
 今までいたアパートに憑いていたのは同年代の男の霊、何でも急性アルコール中毒で亡くなったらしい。
 陽気なヤツだったから仲良くして一緒に遊んだりもしてたんだけど、何しろ天衣無縫って言うか羽目を外しがちなヤツでさ、付き合うのがちょっと面倒になって来たんで新しいアパートを探してた。
 そんな時に紹介されたのが今のアパートなんだ。

「本当に入居なさるんですか?」
 紹介されたアパートを内見して不動産屋に戻り、契約したいと申し出たら事務のおばさんが目を丸くしてたっけ。
 で、彼女が言うには、あの部屋は3日と居つくことがなかったらしいんだ、あまりにも入れ替わりが早いんで別の部屋の住人も気味悪がっていつも半分くらいしか埋まってないんだってさ。
「本当にこの家賃で良いんですよね」
 僕が念を押すと、おばさんはうんうんと何度も激しくうなずく始末、まあ、僕が長く住むことで悪評を払えるならタダでも良いくらいらしい、実際『形の上で一応』ってくらいの金額だったよ。
 ま、そんなに頻繁に入れ替わってることを契約した後から言うあたり、さすがに抜け目ないよね。

 で、その内見の様子なんだけど……。
 いや、びっくりしたね、そこにいたのは若い女性の霊だったんだ、それもすっきりした感じの美人で、顔立ちに似合わないくらいご立派なお胸。
 僕がびっくりしたように立ちすくんでると、彼女が言ったんだ。
「見えるの? あたしが」
 なんかちょっと嬉しそうだった。
「うん、見えるよ、小さい頃から見えちゃうんだ、僕って」
「あたし……怖い?」
「いや、全然、強面のおじさんだったりいかにもDQNって感じのヤツだったりしたら引くけど……若い美人さんだったからびっくりしただけ」
「あら、美人だなんて……」
 ぽっと頬を赤らめたのも可愛かったな、って言うか、霊が赤くなったの初めて見た、霊の顔色って大抵青白いものだからさ。

 実は霊って結構レベルがあるんだ。
 ほとんど青白い影のようで顔もはっきりしないのから、霊感のない人には見えないだけで僕みたいに『見えちゃう』ヒトには実体があるのとあまり変わらないのまで。
 この世への執着の強さがレベルを決めるらしい、例の座敷童なんかごく小さいうちに突然亡くなったから自分が死んでるのもあんまりわかってなかったみたいでさ、遊びたくってしょうがなかったってワケ、僕から見ればほとんど生きてる子と変わらなかったよ。

「うん、心臓麻痺だったの、夜中に突然胸が苦しくなって、助けを呼ぼうとしても声も出なくってね、そのまんま……まだ恋だってろくすっぽしてなかったのに……」
 なるほど、この世への未練は最大級だね、それは。
「ところでさ、僕は真一、君は?」
「麗子よ、レイって言っても幽霊の霊じゃないからね、ウルワシの麗」
「うん、ぴったりだね」
 そう言ってやるとまた顔を赤らめて……あまりに可愛いんでこっちも思わず顔がほてったよ。
 
 麗子くらい執着レベルが高い霊だと生きてる人間にも触れるよ、触られた方もそれとわかる、まあ、生身の女性と違ってどこかふわっとした感触だし体温がなくてひんやりしてるから見えない人だとびっくりするだろうね、その上物にも触れて持ち上げたり投げたりできるんだ。
「うん、あたしはここにいるのよって知らせたいんだけどみんな怖がるだけでしょ? イライラしてついものを投げたりしちゃってた」
 そりゃもう見えない人には恐怖以外の何物でもなかっただろうね。
 
 僕ってさ、社交的な人間じゃないし身体は貧弱だし、顔も自分でもイケメンとは程遠いと思ってるくらいだから今までモテたことってなかったんだ。
 そんな僕でも麗子にとってはオンリーワンだからね、しばらく一緒に住んでいるうちに抱き着いて来たりキスして来たりするようになったんだ、唇もお胸も実体があるようなないような感じだろ? もうね、マシュマロどころじゃなくて、儚いくらいに柔らかいんだ。
 
「ねえ、あたし、ずっとこの格好なんだけど……」
 ある日、麗子がそんなことを言い出した。
 玲子が亡くなったのは夏だったらしくてタンクトップにショートパンツ姿、僕としてはずっとその格好でも一向に構わなかったんだけどさ、気持ちはわからないでもないんだよね……。
「だけど洋服着られるの?」
「わかんない、だってお葬式とか終わってこの部屋に戻って来た時はもうガランとして何もなかったんだもん」
「まあ、ものは試しって言うしね」
 次の日、僕は綿の白いワンピースを買って来た、ちょっと子供っぽいと言えばそれまでだけど僕が好きな服装なんだ。
「あ、可愛い……買ってきてくれたの?」
「似合うんじゃないかと思ってさ」
「着てみるね、向こう向いててくれる?」
「どうして?」
「今着てるもの脱がなきゃだもん」
 まあ、確かに……あのお胸をバッチリ見てみたかったし、服を脱ぐなんてできるのかわからなかったけど、僕は背中を向けたよ。
「サイズぴったり、どう?」
 振り返ってみると……。
「いいね、すごく可愛い」
「ホント?」
 嬉しそうにまた顔を赤らめる。
 実を言うと初恋の子が小学6年の林間学校に着てきたのを見てポーっとなった服装なんだけど、もちろんそんなこと麗子には言わなかったよ。
 不思議なもので、買って来たワンピースは麗子の足元に輪っかを作ってる、でも麗子の服装はちゃんと変わってたんだ、霊にとって着替えるってこういことらしい。

 それ以後、僕はちょくちょく洋服を買って来た。
「またこういうの?」
「だってさ……」
「いいの、真一さんが気に入ってくれればそれで」
 やっぱどうしたって胸の開いた服を選ぶだろ? 麗子には暑さ寒さなんて関係ないんだし。
 で、ある日、麗子が初めて自分からおねだりして来た、ネットの通販サイトを開いて「これ、買ってくれない?」だってさ。
 パソコンを使える霊ってのも妙なもんだなとか思ったけど、麗子が指さしてるものを見て思わず叫んだよ。