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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(51)~(57)【完結】【改訂】

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昼食の菜は、鯖の味噌煮だった。俺は仏間で母に挨拶をしてから、食卓に就いた。

味噌汁を吸い、鯖の味噌煮を口に運ぶ。

“ああ、鯖の味噌煮なんて食べたのはいつぶりだろう…美味しいな…”

その気持ちを口に出したところで、父には理解が出来ない。だから俺は黙っていた。でも、父はふっと味噌汁椀から顔を上げ、話を始めた。

「お前に話したい内、一つはもう言ったが…」

“母さんの事…”俺はそう思って、下を向いた。

「もう一つは、俺の事だ」

その声に顔を上げると、父は俯いていて顔色がよく分からず、でもとても深刻そうな眉間の皺だけが見て取れた。俺は「うん」と相槌を打つ。

「来月、手術なんだ」

「えっ…」

驚いた俺は声を詰まらせ、その時なぜか、仏壇にある母の遺影を思い浮かべた。父は少し黙っていたけど、もう一度顔を上げて俺を見ると、こう言った。

「胃がんと言われてる」

まさかそんな話だったなんて思わなかった。父は、思っていたよりも元気そうなほどに見えたから。俺は、襲い来る混乱を口に出さないようにするため、黙っていなければいけなかった。

「手術ですっかり良くなるもんかは、あまり分からないらしい」

「そう、なのか…」

父は一つ頷くと、元のように汁椀を口元に引き寄せる間で、「だから、俺の事も覚悟しておけ」と言った。俺は、何も言えなかった。