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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(51)~(57)【完結】【改訂】

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第五十一話 死と香







「親父、帰ったぜ」

「おう」

その日、俺と秋夫は二人で酒を飲んだ。秋夫が家に居る、最後の日だったからだ。

秋夫はあれから、次郎と組んでの八百屋から成長して、一人でやっちゃ場から家までを渡り歩くようになり、少々信頼もついたらしい。そこで、一人で居を構えて仕事に集中した方がよかろうとの話になったのだ。

「相変わらずおめぇはすぐに真っ赤になるぜ、親父さんよ」

秋夫はヒヒヒと笑ってそう言う。

「生意気な口利くな」

大して威勢もない俺がそう言うと、秋夫はもう一度ニヒヒと笑った。

「秋夫、煮しめを食べるかい」

おかねがそう言うので秋夫は機嫌よく振り向き、「おうよ」と言って返した。すると、おかねが日の暮れ方に買った煮しめが膳に出される。椎茸と蓮根だけだったが、甘辛く味付けのされた、大層美味しいものだった。

「おっ、こいつぁいい。なかなか腕のあるやつのもんだな」

えらそうにそんな事を言ってみせる秋夫。俺はそれを、「もっと有難く頂きな」と窘める。それももう、今日で終わりになる。

「はーうめえ」

蓮を食べては酒を飲み、飲んだら椎茸を口に放り込む。すっかり大人の酒飲みだ。でも、そんな秋夫を見つめていても、「俺の子なんだ」と胸に迫る気持ちがあった。

「なあ、秋夫…」

「なんでぃ」

俺は、べらべらと喋るわけにはいかなかった。恰好をつけたいわけじゃない。とても単純な事を話すからだ。

じわりじわりと俺の下瞼に涙が溜まる。秋夫は俺の様子を見詰めていた。

「達者で暮らせよ」

俺がそう言うと、またニヒヒと笑い、秋夫は「そっちこそだ」と言ってくれた。