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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Static

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 私は耳を澄ませた。タオルの人の声で『猫』という単語が飛び出したとき、確信した。ワチャコは、死期を悟って去ったんじゃない。クロスケの家の中で殺されたのだ。思わず、スケッチブックに描かれたワチャコの絵を開いた。こんな幸せそうな顔で眠るワチャコが、クロスケの家の中で骨になっていたなんて。スケッチブックを繰りながら、私は耳を澄ませた。解体業者が、探偵のように会話を続けている。
『それは?』
『ちょっと前の生徒手帳だ。町田隆之って誰だよ』
『年齢的に、ここの長男の連れじゃねーのか? なんか、根暗そうなやつだったけど』
 タカ。それは私の彼氏だった人だ。その人の生徒手帳がどうして、隣の家にあるんだろう。別れてから一度だけ姿を見たあの日の夜。私は咄嗟に通報したけど、タカが何をしたかったのか、ずっと分からないままだった。
 でも、もしそれが私に対する警告だったとしたら。
 おばあちゃんが描いた黒い影は、あの『ねずみ小僧』なのだろうか。
 解体業者の話からすると、彼らが会ったことがあるぐらいだから、ねずみ小僧は今でもこの近くにいるのかもしれない。私は膝を抱えながら、解体業者の会話に耳を傾けつつスケッチブックをぱらぱらとめくってワチャコのページに戻した。おばあちゃんは何枚も同じような絵を描いていたけど、日付は全部違っていた。つまり、全部違う日のもの。
 コピーのように添えられたメモは、相変わらず達筆で几帳面だった。
『夜更かしの御供』
 これは全部、夜に描かれたものなんだ。私はワチャコの寝顔をぱらぱらとめくった。確かに影の付き方は夜っぽいし、全体的に柔らかいランプの光に照らされたような雰囲気がある。でも、当時のワチャコは……。
 ベッドの下でずっと、爪を研いでいたはずだ。私は震える手をスケッチブックからゆっくりと引きはがした。ずっとそうだったんだ。ねずみ小僧は、どこにも行っていない。あの懐かしい、ギリギリと爪を研ぐような音。
 さっきからベッドの真下で鳴っていて。
 もう、息を潜めてすらいない。
作品名:Static 作家名:オオサカタロウ